第11話 チュートリアル終了
多くの木々森々を抜けたどり着いたのは――
そう、我らがシリオン村だった。
木造住宅がいくつも並び立つ、村と言うには適度な規模のこと大きさ。
さすが全世界ダウンロード3000万人をゆうに超す、大人気放置ゲーム。
よくここまで、チュートリアルにうってつけの村を作ったもんだ。
「おおっ、帰ってきたぞ!」
「男衆も一緒だ!」
「無事だったんだなぁ……!」
村人たちの歓声が一斉に湧き上がる。
「い、今帰ったぞぉー!!」
俺たちと共に帰ってきた、仮拠点でしばらく過ごしていたメンバーたちも歓喜の声をあげ、家族の元へ駆け寄った。
「ぱぱぁ!」
「貴方ッ!」
大人子供関係なく涙を流し、再会を喜び合う姿。
いわゆる感動のシーンというやつだ。
2D放置ゲーの中にこんな奥深いストーリーがあったなんて、知らなかったぞ。
「……本当によかった、です」
隣のシュエルもなぜか号泣してる。
拭いても拭いても零れる涙。
なんならこの村で今一番泣いているのが彼女、シュエルだと思えるほど。
「ま、そうだな」
どんだけ泣いてんだってツッコもうかと思ったが、今日のところはやめておく。
なぜなら彼女は、とても良い奴だからだ。
人の幸せを、まるで自分のことのように喜ぶのことのできる心の優しい女の子。
それがラストリクエストのシュエル。
最っ高のヒロインなんだから。
「これでまた村が賑やかになるぞ!」
「よくぞ帰ってきてくれた!」
多くの人が祝い、喜ぶ。
「これも全て、新しい村長様のおかげらしいぞ!」
「な……っ!? あの方が、ゴブリンの巣を!?」
「……ん?」
いつの間にか、村人の輪の中に俺がいた。
「バルド長老の跡継ぎにふさわしい!」
気づけば、村人たちの肩の上。
「うおっ、ちょ、待っ……!」
わっしょいわっしょいと上下に揺さぶられ、笑顔と歓声に囲まれる。
「リオ様のお力だ!」
「次期村長! リオ様!」
「村を救ってくださった!」
「いやいやいやいや。俺、そんな大したことしてねぇよ!?」
確かに最後のトドメは鹿蹴りで決めたけど、道中の雑魚とかボスの体力削りはほとんどイレーネがやってくれてたし!
「新しい村長様にバンザーイ!」
「今日は、宴だぁ!」
俺がいくら何を言おうと、ここから降ろしてくれる素振りすらない。
そんな村人たちの熱気に抗えるはずもなく、俺はなすすべもなく英雄扱いを受け続けるのだった。
それからしばらく経って、
ようやく盛り上がりのピークが過ぎ、英雄への胴上げが済んだ頃、
「今日は宴です! リオ様ご一行は、広場の方でお待ちくださいね」
そう言い残した村人たちは、各自宴の準備のためにここから散開していった。
「皆さん、喜んで下さってよかったですね」
シュエルは優しい瞳で、俺を見上げてくる。
「そうだなぁ」
村人が喜んでくれるのは、俺にとっても嬉しいことだ。
なんたって俺はこの村の村長。
俺のためにエッサホイサと働いてくれる手足たちがいい思いをしていないと、俺もいい気になれないというもの。
さぁその感謝の想いを、俺の得る放置報酬に変えてくれ、村人たちよ!
「イレーネ様も、この度はありがとうございました……イレーネ、様?」
シュエルの視線の先、イレーネは静かに背を向けていた。
「……私はここで失礼する」
「えっ?」
思わず声が出る。
イレーネは振り返らず、淡々と続けた。
「私はお前たちの仲間ではない。あくまで協力しただけだ。森の脅威が去った以上、ここに留まる理由はない」
その言葉に、胸の奥がざわついた。
「ちょ、ちょっと待ってください!」
シュエルが慌ててその背を追いかけ、彼女の前に立ちはだかる。
「これだけ一緒に居たんですから、今更離れるなんて寂しいです!」
「……寂、しい?」
イレーネの頭に明確に浮かぶ疑問符。
まるでその言葉の意味を知らないかのような言い草。
思考停止状態のイレーネ。
追い打ちをかけるべく、俺も彼女の前に立ち並ぶ。
「一緒に戦ったんだし、俺たちはもう仲間だろ!?」
「……仲間?」
イレーネは冷たい瞳を細める。
「お前のような矮小な男と、私がか?」
うわぁ相変わらず辛辣だなぁ。
こちとら仲間だなんだと、臭いセリフ吐くだけで恥ずいのに。
だが、俺もここで引くわけにはいかない。
「いや、そもそもイレーネが居てくれなきゃ、俺が困る! お前が居ないと、誰がこの先この村を守っていくんだよ!」
「リオ様ッ!」
隣でシュエルがムスッとしているけど、そんなの関係ねぇ。
次にいつガチャが引けるか分かんねぇんだ。
だから、それまではしっかり働いてもらわないと……本当に困る。マジで。
「…………」
イレーネは言葉を失い、僅かに眉を寄せる。
すると横から、真剣な声が割って入った。
「イレーネ様」
声の主はシュエルだった。
「イレーネ様は、私たちのお仲間です! えっと、その……それだけじゃなくて……」
顔を赤らめ、胸の前で拳をぎゅっと握る。
「私は、お友達にもなりたいと思っているんです!」
「お、お友達?」
イレーネは目を瞬かせ、声が思わず裏返る。
「はい!!」
ブレないシュエルの叫びに、イレーネはしばし沈黙した。
その横顔に浮かぶのは、困惑とも苛立ちともつかない表情。
そしてしばらく悩んだ末――
イレーネは観念したように溜息をついた。
「……仕方あるまい」
そう小さく呟き、肩の力を抜く。
それは承諾の言葉。
「お友達、というものがどういうものか分からないが……そこまで言ってくれるのなら、残ってやってもいい」
イレーネ・アークブレイドは、このシリオン村に留まることを受け入れたのだ。
「よっしゃー!」
「私も嬉しいです!」
満面の笑顔で喜ぶシュエルと同様、俺だって最高に嬉しい。
これで俺の放置ゲー生活、ますます安泰になるからな!
そんな二人を横目に、イレーネはわずかに顔を背けている。
きっと彼女も俺の元で働けることを、心の底から喜んでいるのだろう。
知らんけど!
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