01-2 気になるむかつくやつ(2) 封印兵器の目覚め

王城の城門を越えると、そこには地獄の光景が広がっていた。

黒煙が立ちこめ、地平線までびっしりと魔物がうごめいている。

狼のような影、翼を持つ異形、地を這う巨大な虫――数千を超える群れが都市を囲み、咆哮を上げていた。


兵士たちは恐怖に震えながらも槍を構えている。

その中央に、一人の青年が立っていた。

銀色の髪、青い瞳。まだ二十歳そこそこだろうか。


彼の名はセドリック。

今回の災厄に挑む王国屈指の天才魔導士だった。


「……来たか、聖者」


セドリックは振り返りもせず、背後に近づく足音を感じ取り、呟いた。

そこに立っていたのはレオンハルトとルカ、そして王子ユリウスだった。


「ふん、こいつが魔導士? 今回の“切り札”って事か」


レオンハルトは険しい目でセドリックを見つめる。


「若すぎる。大丈夫なのか?」

「大丈夫ですとも」


セドリックは自信に満ちた笑みを浮かべた。


「私はこの日のために研究を重ねてきた。古代の兵器――《ゴーレム》を起動できるのは私だけだ」


「ゴーレム……?」


ユリウスが眉をひそめると、ルカが小声で説明した。


「古代の遺跡から発掘された自動兵器でございます。鋼鉄の巨体と膨大な魔力を備え、数百の魔物を一掃する力があると……」


「ほぉ……面白そうじゃねぇか」


レオンハルトが口笛を鳴らす。


「だがな、坊主。力ってのは暴れるだけじゃダメだ。状況を見て使えなきゃ、ただの鉄くずだ」


セドリックはムッとし、すぐに反論した。


「聖者といえど、魔法を使えないあなたに言われたくはない!」


ユリウスは内心で同意しつつも、何か胸に刺さるものがあった。


(……確かに、レオンハルトは魔法を使えない。けれど、これまで何度も厄災を解決してきたではないか……)


素直に弁護できない自分に苛立ちを覚え、唇を噛む。

そのとき、セドリックが大地に手をかざした。


轟音と共に、土煙を突き破って巨人が姿を現す。

鋼鉄の肌を持ち、十数メートルはあろうかという巨体――《ゴーレム》だ。


「これが……古代の力……!」


兵士たちから驚きと歓声が上がる。

ゴーレムは振り下ろした拳で魔物を一掃し、脚で踏み潰し、数十体を瞬時に粉砕してみせた。


「すごい……!」

「これなら勝てるぞ!」


兵士たちの士気が一気に高まる。

セドリックは得意げに胸を張った。


「どうだ! これこそが私の研究の成果だ!」


だが――


魔物の数はあまりにも多すぎた。

群れは四方から押し寄せ、ゴーレムの足にまとわりつき、身体をよじ登る。


「……なっ!? は、離れろ!」


セドリックが必死に命じるが、巨体はあっという間に取り囲まれた。

やがて鋭い牙と爪が装甲を削り、膨大な魔力を帯びた巨兵は無惨にもその場に崩れ落ちる。


「う、嘘だ……私のゴーレムが……!」


セドリックは愕然と叫んだ。

兵士たちの歓声は悲鳴に変わり、戦場に絶望の色が広がった。

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