第45話 オタク、隠しクエストを紹介される
「おぉーほほ! 情けないと思いませんの、先生!? こんな小娘に押し倒されてまたがられて! ざぁこ、ざぁこ! よっわよわのざぁこ! ――あぁーらぁ、泣いちゃってミジメですわねぇ!? えいっ、このまま締め付けられて弱音出しちゃえっ!」
リルカさんは今晩もノリノリで、大暴れしていた。
太ももの後ろに雫を伝わせながら、満足して隣の部屋に帰って行く。
どうもストレス解消に興味を持ちすぎて、ぼくらの隣に部屋を取ってしまったようだ。
辺境伯邸に帰らなくて良いのかな?
「さ、リルカちゃんが満足したから、次はボクらの番だよ?」
クルスさんが壁ドン風味にぼくを押し倒してくる。
その表情は赤くとろけている。
す、少し休ませてください。
********
「リルカさんが変な趣味を覚えてるので、辺境伯に打ち首にされそうな気がするんですが」
「いや、まぁ……気にしすぎじゃない? 傷物にはしてないどころか、命に関わる重傷を救ったわけだし。それに、オタクくんも無理強いしてるわけじゃないし」
無理強いされてる方ですけどね、ぼくは。
宿の食堂で昼食を食べながら、本当に大丈夫かと相談をしていた。
当のリルカさんは、まだ自分の部屋ですぅすぅ寝ているらしい。
女性一人で泊まっても大丈夫なのが、この宿の安全なところだよね。
「それよりさー、オタクくん? ワイバーン狩りたくない? 昨日の料理は、もっと食べられるべきだと思うんよー」
「それ賛成ー。ワイバーンの生肉足りないよねぇ。ワイバーンじゃなくても、もっと美味しい食材を狩りたくなんね? なんね?」
エイジャさんとリーシャさんは、昨日のワイバーンユッケが忘れられないようだ。
確かに、今までにワイバーン肉も結構食べちゃったしな。
他にも高級魔獣肉は狩りたい。
「今まではさぁ? あーしらだけでそんな大物狩れんかったし、たまに狩れてもお金にしちゃってたけどさぁ?」
「そーだよね! せっかくオタクくんの力で充分に稼げるようになったんだから、もっと食の充実がいると思うんよ! 食欲は大切なんよ!」
食欲以外も大切な人たちですよね、あなたがた?
ただ、美味しいものを食べたいというのはぼくも賛成だ。
「どうしましょう、クルスさん。美味しい魔獣というと、ハルパー渓谷かエイオン山岳が狩りやすいと思いますけど。……行ってみます?」
「そうだね。じゃあ、今回は美味しい素材狩りということで! クエストがなくても、狩りに行ってみようか!」
そういうことになった。
別にクエストがなくても、個人が狩りに行くのは自由だ。
もちろん素材としてもギルドに売れるし、代金も出る。
ただ、難易度が高いのと成功報酬が出ないので、普通の冒険者はあまりやらない。
リスクの方が高いからね。
とは言っても、うっかりクエストが出ているかもしれない。
なので、一応ギルドに足を運んでみることになった。
「――クエストならあるぞ。食材調達のクエストだ」
ギルドに行くなり、レイノルド爺さんが教えてくれた。
あるんだ、クエスト。
「『大剣姫』にも以前の『紅月』にも縁はなかったがな。入手難度の高い食材は、調達クエストがずっとある」
なんでも、貴族や街の高級料理店が頼むらしい。
ほぼ常設依頼なんだとか。
「……つっても、食道楽のために、冒険者に命を懸けさせるわけにゃいかねぇからよ。よっぽど実力があって、食道楽に理解のあるパーティにしか紹介しねぇ」
なるほど。
そりゃそうか。
言っちゃえば、害獣討伐とは違う、『達成しなくてもみんな生きていける』類いのクエストだもんな。
そりゃ、一般冒険者からの理解は得られないか。
レールスも道楽関係はバカバカしいって避けてたもんな。
「お前らも興味があるんなら、紹介してやる。何だかんだで、需要はあるからいくつかのパーティに専門に依頼してんだ」
「良いですね! ボクらも食事に興味あるし、何より美味しい食事は、日々の大事な生きる支えです! 大事な仕事ですよ!」
クルスさんが熱く語る。
美味しいものを食べると、元気が出るもんね。
貴族なんかも、美味しい食事を心の支えに、責務に耐えてる人もいるかも知れない。
「そうかそうか。良い心がけだな。……んじゃ、すこぶる危険だが美味い魔獣の出るところを教えてやる。狩れば狩っただけ買い取るから、好きな分だけ持ってこい」
高難易度の危険区域のようだ。
実はハルパー渓谷もその場所の一つで、ぼくらの出番は救助依頼用に、後に取っておきたかったらしい。
なるほど、ワイバーンも猛禽系魔獣も、美味しいもんね。
「じゃあ、ここだな。カリベール群生地。……毒性植物のマルバラン吸血花って奴の群生地なんだが。その花を食って溜めた毒を吐く、『フライングフォートレス』って陸生魚が美味い。この辺境領で手に入る貴重な魚類なんで、需要が絶えねぇ」
フライングフォートレス……知らない魔獣だ。
フォートレスってことは、鱗が硬い類いの奴だな。
毒のブレスを吐くんなら、解毒魔法と毒防御魔法の使えるぼくなら有利に戦えそうだ。
毒性物質の生物濃縮ってことは、察するにフグみたいな魔獣かな?
でも、フグに硬い鱗は無いしな。鱗なしでも食べられないように、毒を持つんだし。
「よくわからない生態だけど、良さそうじゃないですか? たぶん防御できますよ」
「じゃあ、そこまで行ってみようか。――レイノルドさん、場所を教えてください!」
クルスさんがゴーサインを出して、向かうことになった。
爺さんが詳しい場所を教えてくれたんだけど、知ってる場所だった。
エイオン山岳の近くじゃないか。
てことは、マルバラン吸血花って高山植物か。
「『マルバラン吸血花』自体も、錬金術の材料になる。絶滅しない程度に採取してくれれば買い取るが、血を吸うし毒を入れてくるしで、あんまり美味しい素材とは言えねぇぞ」
「なるほど。むしろ、道に生えてる吸血花に触れないように進まなきゃいけないんですね」
吸血植物かつ、吸血時に毒を注入してくる危険植物。
その群生地となると、なるほど、確かに危険地域だ。
「ま、そういうこった。気をつけて行ってこい。毒の沼地だと思って進めよ」
「じょぶじょぶ! 毒地帯なら、オタクくんの魔法で無敵だよ、じーちゃん!」
エイジャさんとリーシャさんもやる気だ。
この街は海が遠いから、魚類って川魚しかないもんな。
フライングフォートレスという美味しい魚、という目標ができて、みんなやる気になっている。
「じゃあ、食料を買っていって、さっそく飛行魔法で向かおう!」
クルスさんも意気揚々と指示を出す。
一応、救出用に保存食をお目に持って行くことにした。
助けられる冒険者を見かけたら、助けられればもう一つの目標も達成できるからね。
そんな感じで、ぼくらは目的地の『カリベール群生地』に向かうことになった。
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