第35話 オタク、相談に乗る
翌朝、朝食の席でぼくは尋ねた。
「もっと提案したり、色々積極的に言った方が良いんでしょうか?」
「そうだね。オタクくんはもうちょっと自己主張して良いよ」
クルスさんが肯定してくれた。
今まで引っ込みすぎていたらしい。
戦闘プランの提案にしても、パーティの方針にしても、だ。
「理由は、わかってるんですよ。ぼく、『それ』が原因で前のパーティを追放されたので」
前のパーティ『大剣姫』では、戦闘の陣形指示は全部ぼくが出していた。
レールスの戦い方やクセはよく知っていたし、それを活かせる戦闘プランを考えられるのが、パーティにぼくしかいなかったからだ。
結果、『そんな口うるさい奴は要らない』と追い出された。
それがあって、何となく口出ししづらかったんだよな。
初対面のパーティだったってこともあるし。
「オタクくんの目から見て、ボクたちの連携に改善点はある?」
「あ、それウチも聞きたーい。もっと良い戦い方あんの?」
今の話を聞いても、ぼくに尋ねてくれるのか。
その心意気に答えようと、ぼくは気になっていたことを答えた。
「いくつかありますけど……まず、エイジャさんの位置が危ないです」
「あーしの位置? どゆこと?」
エイジャさんの武器はデスサイズなんだけど。
本来、大鎌って、最前列で使う武器じゃないんだよね。
「本来、大鎌って、盾を超えて使う武器なんですよ。ショーテルとかの曲剣がそうなんですけど。……味方や、相手の盾の上から、長さを生かして上から刺す武器なんです」
「へぇー、そうなんだ。確かに、長い分だけ範囲が広いけどさ」
エイジャさんは広範囲武器として豪快に使ってるけど、本来は槍と同じで、長射程武器なんだよね。
長柄の武器ってのは、だいたいそうなんだけど。
「なので、本来は重武装のクルスさんが敵の攻撃や勢いを止めて、その後ろからクルスさんを超えて安全に攻撃するのが正しいんです。……そのクルスさんの盾役のことを、『タンク』って言うんですけど」
ぼくがそう言うと、三人は互いに顔を見合わせた。
「本当だわ。長く持ってクルスの上から振り下ろしたら、あーし攻撃受けないじゃん」
「ぼくが鎧で止めれば良いわけだしね。今までみたいに、傷ついたら交代、よりは良いのか」
今、気づいたみたいだ。
『紅月』には『紅月』の連携があるから、今までは言わなかったけど。
「だから、攻撃を受けた後にクルスさんの重武装で守るんじゃなくて、クルスさんが最前列で相手の攻撃を止めている間に、二人が攻撃するのが安全なんです」
エイジャさんがデスサイズで二列目から攻撃したり、リーシャさんが側面に回って多面攻撃したりね。
「あー……前に出すぎだったんかー。そりゃウチらケガもしやすいし、回復薬代もかさむはずだわ」
「エイジャとリーシャは、引っ込むより前に出て戦いたがるからね」
頭を抱えるリーシャさんに、クルスさんがフォローを入れている。
三人の性格上、それはよくわかる。
三人が三人とも、誰かに守られるより自分が守りたい、って性分だし。
特にエイジャさんとリーシャさんはその傾向が強い。
自己犠牲と言えばそれに近いけど、殴られるより先に殴り倒してしまおう、っていう超攻撃的防御方法だ。
攻撃は最大の防御、という言葉の通り、それも間違いではないんだけど。
「でも、オタクくんが入ってから、今までの連携でもうまく回ってるよね?」
「はい、それはぼくが、最前列の二人の防御と回復をしているからです。……二人のコンビネーションは、エイジャさんが大きく薙ぎ払ってリーシャさんが細かく仕留めるので、耐久力さえ高ければ、攻撃の連携としては理にかなってるんです」
エイジャさんはデスサイズで、リーシャさんは拳。
デスサイズはもちろん小回りが利かないんだけど、その隙をリーシャさんがフットワークと拳打による攻撃で埋めていることになる。
討ち漏らしは二列目のクルスさんが討ち取るので、攻撃だけ考えればそんなに悪い陣形でもない。
ただ、負傷リスクが恐ろしく高いだけで。
「はぁー、それでオタクくんが入ってスムーズに狩れるようになったんだぁー」
「そうですね。ぼくは逆に攻撃力が低くて防御特化ですし。防御や回復の範囲も広いので、前衛三人でもカバーできます。だから、『紅月』の陣形に足りないのは防御力だったんですよね」
元々が紹介の時に、前衛三人って言ってたからね。
バランスの悪いパーティだった。
三人の装備を考えると、クルスさんとリーシャさんが防御と攻撃の前衛で、エイジャさんが中衛に入らないといけないんだ。
そのバランスだったら、接近戦主体でも比較的負傷は少なく戦えるはずだ。
「あと、お金が入ったのでエイジャさんは予備の武器を持った方が良いと思います。林の中とか、大きな武器は使えない場所もありますから」
「あーね。確かに、買っても良いかー。何が良いと思う、オタクくん?」
そうだなー……
刃物系は取り回しが違うから、微妙なんだよね。
「短槍とかどうですか? 腕の長さくらいの柄で、刃が短い奴。両手持ちもできるし、重心が刃先の方にあるんで、片手で金槌みたいに振り回すこともできます」
「おぉー、良いじゃん、良いじゃん! そういうのあーし好みだよー!」
武器はバラゴ親方の店に行けばあるんじゃないかな。
クルスさんも両手持ちの長剣だけじゃなくて、短剣も持つように決めたようだ。
「ねぇー。ウチのはぁー? なんかないのー?」
一人だけ予備の武器が必要ないリーシャさんが、拗ねたように口を尖らせる。
自分も何かサブウェポンが欲しいようだ。
「そうですね……身軽な人が使う武器は、投擲系が相場なんですけど。リーシャさん、ナイフ投げとか得意ですか?」
「全然」
なるほど。無理だ。
ナイフ投げも、日本のダーツと違って、ちゃんと刃先が目標に刺さるように投げないといけないからね。
技術が要るのだ。
「じゃあ、小さな鉄球ですかね。拳の届かない距離に、重さのあるものを思い切り投げつけるだけでも、遠距離の打撃攻撃してることになりますから」
「良いね! それならウチにも扱えそう!」
良さそうだ。
リーシャさんはアイテムボックスも使えるし、投げつけられるものがあれば便利だと思う。
「オタクくんさぁ! そういうの、もっと早く教えてよ! 上位パーティにいたんっしょ!? ウチら、まだ学ばなきゃいけないことあるからさ!」
「そうだね。リーシャの言うとおりだよ。……前のパーティでなんて言われたか知らないけど、もっとボクらに色々と教えてよ。知識も含めて、ボクらにはオタクくんの能力が必要なんだから」
リーシャさんとクルスさんが、もっと能力を発揮して良い、と伝えてくれる。
嬉しいことだと思う。
前のパーティじゃ、ぼくががんばることで、パーティにイヤがられたから。
「オタクくんはさぁー。ずっと一生懸命やってきて、結果的に間違えたんじゃん? でもさぁー、手を抜いて成功するよりは、一生懸命にやってた方が、後のためにはなると思うんよ。――あーしらは、手を抜いて間違えたときは、死ぬときだからさ」
エイジャさんが教えてくれた。
ぼくは一度間違えたのだけど。このパーティでは、間違いではないのだろうか。
みんなの言葉が温かい。
なんだか、自分のことが好きになれそうな気がした。
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