第29話 また新しい朝が来た

 鳥のさえずりとカーテンの隙間から差し込んでくる太陽の光で目が覚める。


 なんて心地の良い朝なんだろう。こんな日には散歩にでも出かけたくなってしまう。


 学校に遅刻してしまうので、もちろんやらないが。



「お兄ちゃーん! ご飯できてるから早く降りてきてー!」


「わかった! 今行く!」



 妹である莉子の声で起こされて、ゆっくりとリビングに向かう。


 いつも通りの朝だ。


 部屋のドアを開けた瞬間から漂ってくる香ばしい匂いも、フライパンで何かを焼いている音も変わりは無い。



 顔を洗い、食前の歯磨きを済ませてからリビングへと向かう。


 四つある椅子のうちの一つには、すでに制服に着替えた莉子が座っていた。



「今日は獅子唐とソーセージを塩コショウで炒めたよー」


「さすが莉子。獅子唐を塩コショウで味付けしたやつ好きなんだよ」


「ちゃんとソーセージも食べてね?」



 そんな冗談を交わしながら、莉子の相向かいの椅子に座って手を合わせる。


 夢の話、学校での話、漫画アニメの話を二人でしているうちに、朝ごはんを平らげてしまった。



 そして、制服とカバンを身につけたところで、玄関のチャイムが鳴る。



「はーい」


「おはようございます、センパイっ!」



 二重ロックを外し、扉を開けると、見覚えのある金髪ミディアムヘアの少女が元気よく挨拶してくる。


 彼女の名前は園池 彩芽。


 先日俺の彼女になった一つ下の後輩だ。



「全然俺の方から迎えに行くのに、本当にこれでいいのか?」


「いいんです。なんか通い妻みたいで良くないですか?」


「通い妻って、お前なぁ…………」


「んっん!」



 彩芽と話していると、すぐ後ろから聞こえてくる咳払い。


 振り返ると、あからさまに不機嫌な妹様が立っておられた。


 よく考えなくても、兄が家の玄関で彼女と戯れているのは心地よくないか。



「じゃ、じゃあ俺たちは学校に行くから、莉子も気をつけて学校に行くんだぞ!」


「はいはい、お惚気お兄ちゃんは早く学校に行ってくださーい」



 耐え切れなくなった俺は玄関のドアが閉まったのを確認してから、一つため息をつく。


 それを自分のせいだと思ってしまっているのか、彩芽が心配そうに俺の顔を覗き込んできた。



「やっぱり朝はワタシの家の前で合流にした方がいいんですかね?」


「いや、彩芽は気にしなくてもいい。うちの妹には帰ってからしっかり言っておくから」


「三室戸センパイの件も…………」


「それは俺もどうすればわかんないからな」



 俺が彩芽の告白に了承をしたあの日から、和奏と俺は一言も交わしていない。


 俺は何度か声を掛けようとしたのだが、和奏が明らかに俺との接触を避けるように逃げる。


 やはり気まずい。


 俺としては、和奏とは友達としてこれからも交友していきたいのだが、なんとも厳しい状況にあるのだ。


 

 和奏に関して言えば、俺だけにとどまらず、だいたいのクラスメイトに対する対応が雑になっており、授業中もどこか上の空。


 いつかは話し合わなければいけないと思う。


 俺のため、和奏のために。



「そういえばセンパイっ! 授業で――――」


「マジか。あの先生そんなこと言うのか」



 とはいえ、今の俺には彩芽という恋人がいる。

  

 彼女の笑顔を絶やさないことが現時点の俺の最優先事項だ。



 こうして俺の、俺たちの新しい日常はスタートする。

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