第8話 イフリートVS冒険者達 一

~ side:イフリート ~


 満身創痍まんしんそういの姿のカナンを見てぞっとした。

 それは怒りとは別の感情で、遠く忘れていたもので。

 

 戸惑う。


 息を吐く。

 

『カナン、俺に任せろ』

「うん」


 俺が今するべき事を言葉かたちにする。


 集中しろ。


 ここは死地で、俺だけが死んでいい場面じゃない。


「うふふ、あ――はっはっはっ」


 重低音が響く。

 俺の炎を突き破って放たれたを左の翼で弾き飛ばした。


「退屈な狩りハントだと思ってたけど、ええ、面白くなってきたわね!」


 俺の炎を掻き消して、氷雪の混じる風が噴き上がる。

 魔法使いの女が獰猛な笑みを浮かべ、その右手に握る杖には青白い魔力の洸が煌々こうこうと灯っている。


 そして女の左斜め後ろに、異形と化した右腕を前に突き出す大男の姿が見えた。


―― 焼け爛れた体の一部からは金属の光沢が覗き、革の覆面を失って露わとなったその素顔は、まるで鋼鉄の骸骨のよう。

 

―― その右腕は有機物の質感を持つ巨大な砲と化しており、そこから生える数個の突起からは、白い煙が棚引いている。


「あれは、まさか改造人間……」


 戦慄せんりつを含んだ、カナンの小さな呟きが聞こえた。


『俺はそれを知らねえ。ヤバい点と弱点だけ教えてくれ』

「人間の十数倍の膂力パワーと、城壁みたいな耐久力タフネスを持っているんだ。戦闘状態だと数十分しか活動できないのと、放出系の魔法が使えないのが弱点なんだけど……」

『なるほどな……』


 それであの右腕というわけだ。

 俺の左の翼を半分消し飛ばしやがって、ああ、十分過ぎる威力じゃねえか。


「カナンちゃん、俺はな、本気で仲間にしてやる積もりだったんだ……」


 黒髪黒目のイケメンが、大男と女の前に出てきた。

 右手に握る剣の刃から、白い凍気が噴き出ている。

 

「それなのに、その好意をお前は踏みにじった。ノミエ」

「は、はいっ」


 神官の少女、ノミエが両手に持つ杖が青い洸を放つ。


「水と風の力よ 加護となり我が仲間を守れ」


 四人全員を青い魔力の洸が覆った。


「この怒りは、八つ裂きにして豚の餌にしても足らねえぞ?」

『ぷっ、ダサ過ぎだろお前』

「は?」


 イケメンの焦げた額に青筋を浮かぶ。

 血走った目がカナンじゃくて俺の方を向いた。


『女に振られたからって、剣を抜いて凄んでよ。お前童貞か?』


 あおり文句を考える必要も無かったな。

 素で口から出ちまった。


「このっ、ぶっ殺してやる!!」

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