第15話 夜笑う路地裏
砕けても瞬時に再生する骨、拳からほとばしる炎、闇に沈んでは形を変える影、そして空気を侵す毒――。
そのどれもが常識を逸した異能だった。
ラグナは腕を組んで黙したまま見守り、横に立つサラは息を呑んでいた。
一言も発さずに見つめてきた彼女の胸には、恐怖と畏れが渦巻いていた。
だが披露を終えた四人は、次の瞬間にはいつもの調子で笑い合い始める。
その落差に、思わずサラの口から言葉がこぼれた。
「……さっきまで怪物みたいだったのに……どうしてそんなに笑えるの?」
その問いに、四人は一瞬だけ目を合わせる。
白矢がへらへら笑いながら肩をすくめた。
「怪物でいる方がずっと楽しいに決まってるじゃん。
僕らはそうやって生きてきたんだ――常識外れで、誰もやらないことを楽しむようにな。
――ねぇみんな? ぼくの演出が一番派手だったよね?」
軽口にすり替えた白矢に、飾折がすかさず拳骨を振り下ろす。
「はぁ!? 何が演出だ、バカ! ただの見せびらかしだろ!」
「いってぇ! 暴力とかマジやめなって〜!
……あーもう、頭ん中がガンガン回ってる気がする……」
白矢は大げさに頭を押さえてうずくまり、わざとらしく呻く。
そして顔を上げた瞬間――瞳がスロットマシンのように回転し、数字や絵柄がくるくる切り替わった。
「ジャーン! 777!」
とぼけた顔で決めポーズを取る白矢に、飾折は爆笑しながらもツッコミを入れる。
「はははっ……笑わせやがって! ……ああもう、ふざけんな!」
清太郎は吹き出し、獬崎も小さく笑みを漏らした。
恐怖でこわばっていたサラも、最初は無理に笑いを抑え込もうとした。
だが、目の前で繰り広げられる馬鹿騒ぎは、気づけば本物の笑みを引き出していた。
「すご……ほんとに目が変わって……ふふっ!」
思わず吹き出したサラに、白矢はさらに得意げに目の模様を変えてみせる。
「お、やっと笑ったね? じゃあサービスで――」
白矢の瞳に数字が浮かび、「3」「2」「1」とカウントダウン。
最後に「0」と同時に矢印マークが現れ、一直線にサラを指した。
「はい、狙い撃ち〜! ご指名はサラちゃん!」
瞳の矢印が点滅してサラを照らすように輝き、白矢は両手を広げて茶化す。
サラは慌てて顔をそむけたが、もう笑いを堪えきれず肩を震わせた。
「な、なにそれ……くだらないのに……っ、ふふっ!」
仲間たちは一斉に呆れ返り、笑いがさらに広がった。
「調子に乗りすぎだぞ、おまえ」
飾折は口元を歪めつつも、どこか楽しげに白矢へ返す。
そのやり取りを目にしたサラは、胸を覆っていた恐怖が少しずつ解けていくのを感じていた。
ラグナはしばらく彼らを眺め、腕を組んだまま黙考する。
「……まったく、奇妙な連中だ。だが笑い合う姿を見りゃ、本性も嘘じゃねぇってことか」
呆れと警戒は消えきらない。
それでも、この若者たちが筋を通していることだけは理解できた。
そしてようやく、豪快に笑い声を響かせる。
「よし! 今夜から俺たちの縄張りを見回る。おまえらも手伝え! ほかにもいろいろ仕事を手伝え!
その代わり、飯と寝る場所は用意してやる!!」
その言葉に白矢は嬉しそうに手を打ち、くるりと仲間へ振り返った。
「やったじゃん! これで宿もごはんも確保! おまけに仕事体験までついてきた!
――よし、これは祝うしかないでしょ! ハイタッチ!」
飾折は「おうよ!」と笑って勢いよく手を合わせ、清太郎も苦笑しながら続く。
獬崎は優雅に微笑み、ほんの指先だけ軽く添えた。
そしてサラも、戸惑いながらも手を差し出した。
五人の手が一瞬だけ重なり、ふざけたハイタッチが広場に小気味よい音を響かせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます