第3夜

夜空のカーテン【リスナーキャラ】▼10分

 東洋の妖精

「魔女はん、探してはったんはこの石ころで間違いあらへん?」


 魔女

「間違いないよ! 本当にありがとう。今日までに欲しかったから、間に合わないかと思って諦めかけてたんだ」


 妖精

「ええんよ。こないな石ころうちの傍にぎょうさん転がっとりますさかい。むしろええんですの? こないにお代もろてしもうて」


 魔女

「もちろん。極東との交易はまだ細々としたものだからね、速達代も含めてるよ。石売りに頼んだらもっと時間もお金もかかるよ」


 妖精

「そうやなくて。こないなけったいなもんに大金叩きはるから不思議なんです。ウチからしましたら、道の端の石ころやもん、これ」


 魔女

「そんなにコレ、ゴロゴロ転がってるの……。こっちじゃ結構高級品だよ」


 妖精

「はー。外つ国とつくにの皆様の考えはることはわかりまへんな。ウチは石ころよりお菓子買うてほしいですわ。魔女はんが喜んでくれはる思うてお菓子色々こさえとったんに。久っしぶりにお手紙くれはったかと思えば、石ころほしいやなんて、石屋と菓子屋を間違うとりますよってお返事書くとこでしたわ」


 魔女

「よく言うよ。君だってお手紙くれたことないのに。お菓子なら定期便で毎月買ってるじゃん……いつも美味しくいただいてます。それと、手間をかけてくれてありがとうね」


 妖精

「……素直すぎて敵わんわぁ。ホンマに1000年生きてはります?」


 魔女

「生きてるけども……なにさ」


 妖精

「いーえ。いけずな魔女はんには、ウチの取っておきお出しするのやめとこ思うとったんですが……」


 魔女

「エッ、えっ! なになになに!」


 妖精

「ふふ。気になります?」


 魔女

「気になる!! えっ毎月新作食べてますけども、えーっ! もしかしてもうひと品作ったんですか!」


 妖精

「あれまぁ、そないにはしゃがれますと嬉しゅうなりますわぁ。ふふ。ホンマに1000年生きてはります?」


 魔女

「生きてはりますけど。君だって200年ぽっちしか生きてないの、流石にサバ読んでない? もう少し無邪気でいいと思うよ、昔みたいにさ」


 妖精

「嫌やわぁ、ウチがまだ50そこらのこまい頃からの付き合いですのに。今年で286歳なります。ウチらの種族じゃ立派な大人の姉(兄)さんやよ」


 魔女

「エッ嘘。もうそんなになる?? わー、えっ、私君がべそかいてるところ昨日のことみたいに思い出せるよ」


 妖精

「いけずやわ。ほな、ウチは姉さんがお夕飯ひっくり返して、泣いてはったこと思い出しますね」


 魔女

「……あれは身を引き裂くように辛かった。もったいない……」


 妖精

「そんなに落ち込まんでもええのに。そやな、魔女はんはウチの無邪気さが恋しい言いはりますし、1つ。あの石ころは何に使うんか、無邪気に聞いてもええですか? な、ねぇや、ウチに教えてぇや」


 魔女

「えー、かわいいことするね」


 妖精

「ふふ、元気なった。上目遣い言うんですよ。昔っから魔女はんはウチがこの顔すると言うこと聞いてくれはるんです」


 魔女

「ふふ、参ったなぁ。うん。君のそのお顔可愛いからね。いいよ。なんなら準備出来てるし、ちょっと早いけど見学してく?」


 妖精

「あら、ええんです? てっきり魔女の秘術やから、内緒にしはると思うとりました。お菓子作るところウチなら、誰にも見せへんなぁ」 

 

 魔女

「あはは。私だって、内緒のレシピはあるよ。商売だもの。でも今日のは私が開発した技術とかじゃないから、全然見て貰って構わないよ」

 

 妖精

「さよですか。ほな、遠慮なく相伴しょうばんになります。ウチ、あの石ころが何になるんかずっと気になっとったんです」


 魔女

「ふふ。そう? じゃあ外出てちょっと歩くよ。この石はね夜が留まると書いて夜留石よどまりいし。大きい石だと綺麗に割りやすいし、出来てることが多いんだけれどね。中に夜空が入ってるんだ」


 妖精

「はぁ、夜空ですか」


 魔女

「宝石みたいに中に結晶を作る石なんだけど、小さいのがまばらにできるんだ。黒い断面に無数の青白い結晶が煌めいて、まるで夜空みたいになるのが名前の由来。東洋の火山でしか造られない貴重な石なの」


 妖精

「はー。そういえばウチの島は火山多いどすなぁ。あちこちで数年に1度はポンポン噴火しとりますさかい、火山岩ならぎょうさん転っとるけんど。こないな石ころが、宝玉やなんて……あれ、でも魔女はん、この石ころ小ちゃくて、結晶なんかあらへんのとちゃいます?」


 魔女

「宝飾として使う訳じゃないから大丈夫だよ。魔術素材としての側面もあってね、夜を象徴する石のひとつだから月や影、夜そのものに関する魔法と相性がいいんだ。あ、あそこだよ」


 妖精

「平たい水桶、やんなぁ? 洗濯でもしはるんです?」


 魔女

「んー。似てるかな。カーテンを染めようと思って」


 妖精

「はぁー。魔女はん、染め物もやられますの」


 魔女

「ううん。一昨日から始めたばかり。商品を作る時はちゃんと布屋さんから買ってるんだけれど、贈り物だから自分でやりたくて。染め液の工程に魔法が必要でさ。なんか、やだなって思ったんだよね」


 妖精

「そらまた、えろぅ重たそうなお餅焼いとりますなぁ。ふふ。ねぇや、好い人いいひとできたんなら、ウチにも教えたってくださいよ。薄情やないの。言いふらす相手も居らへんし、応援したりますのに」


 魔女

「もぅ。違うよ。友達。茶化されたくないから一応言うと生殖機能無い子だから恋とか生まれないタイプの友達」


 妖精

「そこまで否定せんでも……。ウチ色話好きやから、ワクワクしたんに。残念」


 魔女

「そう言うと思ったからだよ。まぁ、そんな訳で慣れないことやるもんだから分量とか混ぜ方とか色々間違えて作り直すことになってさ。材料足りなくなっちゃったんだよねぇ。えっと、すり鉢どこやったかな。お、あった」


 妖精

「……あの硬かった石が、粘土みたいに一瞬で潰れてしもた。魔女はんそれも魔法道具で? ええなぁ、粉引くのに良さそうやわ」


 魔女

「そうだけど、お菓子作りに使えるかな……後でメーカー教えるよ。こっちのボトルが……そうだね。あとはこの昨日作った留め液に8g足して、振る」


 妖精

「この水桶、水鏡みずかがみの魔法やないですか? もしかして水鏡に映った空で布を染めるんです? 素敵やね」


 魔女

「当たり! 星が瞬く本物の夜空みたいなカーテンを作りたくてさ。夜を留める石なんてピッタリだと思って混ぜてみたんだよね」


 妖精

「えー。そんな言葉合わせみたいなのでええんです?」


 魔女

「結構大事な要素だよ。魔法だって始まりは歌だった。人間由来の魔法において言霊の力が大きく作用する物は多い。人間は君たち妖精みたいに神秘性を持たないからね」


 妖精

「さよですか。人間の考えるんことはなんや、楽しゅうなぁ……。おや。魔女はん、そろそろ準備済ませた方がええですよ。あと20と9つ数えたら星が降りますさかい」


 魔女

「エッ! ほんとに!? 予報だと1時間後だったんだけど……えっと、っ、ふーっ。2液性のやつって何度やっても緊張するなぁ。同じ高さで、同じスピードで……ふぅ」


 妖精

「……? もうお仕事はええんです?」


 魔女

「うん。あとは、朝までほっとくだけ」


 妖精

「ほな、一緒に星見ながらウチの取っておきいただきましょか」


 魔女

「えっ! ……あっ、水筒のお茶しかないけどいい?」


 妖精

「ええですよ。こういうのも赴きあるやないの。まもなくスミレの月やから、菫のお菓子です」


 魔女

「わ、かわいい! いつもの事ながら食べちゃうの勿体無いな……」


 妖精

「ほな、魔女はんの気ぃ済むまで眺めとってください。箒星より目を引けるなんて、嬉しいこと言ってくれはりますわ」


 魔女

「うん……。……。はぁ、かわいい……」


 妖精

「それで、ホンマに流星群見ない人おります? まぁええですわ。そいで、どないに仕上がるんです? この空の1場面を切り取るんか、それとも動きはるんです?」


 魔女

「えっ、あぁ。んーと。浸透液が無くなるまで、厳密に言えばカーテンが全部沈まなくなるまでに映ったものが、そのまま記録されるの。流星群が流れて、星が回って、月が沈んで、朝焼けまで染められる……予定。6時間分でできてるはず」


 妖精

「あー。予報がほんまやったらしばらくしてから降り始める予定やったんね。ちっと待ってください。んー。千数える間もなく、1番降る時間になります。そっから半刻はんこくはまばらに降り続けます。……ちっと朝までの間、物足りまへんのと、ちゃいますか」


 魔女

「ん? うーん、たしかに。言われてみればそうかも」


 妖精

「ほな、ずっとあがって行ったとこの古い友人に貰ろた空の素敵なもん、使ぉたりますわ。4半刻の間、空に虹のカーテンを引くんやって」


 魔女

「へぇ〜? ……あっ、エッ! それ、もしかしなくてもオーロラじゃない!? うそ、私本物見た事ない」


 妖精

「あー、そないな名前しとった気ぃしますわ。ウチも見た事ありまへん。楽しみやわ。ほな、お茶沸かして一緒に夜更かししましょや」

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