三ノ巻 その四 ―青と黄の衝突―
謎の
正門、裏門それぞれ戦力比は五対二。
さらに警護側は奇襲を受ける形になってしまった。
数合のうちに破壊されてしまう四体の鋼鉄兵。
破壊された警備機から、不明機が搭乗者たちを引きずり出した。
そして――頭部に、奇妙な金属の兜を被せる。
「やめ……っ!」
警備兵の叫びが途切れた。
兜の奥で光が瞬き、搭乗者たちは全身から力が抜け落ち、動かなくなる。
その間に他の鋼鉄兵が迎賓館周囲の建物を破壊し始める。
夜空に火の粉が舞い、悲鳴が上がる。
その騒ぎに反応し、王国騎士たちが
二体を積み荷の警護に残し、正門と裏門へ分かれる。
魂機兵召喚の光を確認してか、謎の鋼鉄兵たちは、まるで満足したかのように身を翻した。
地面を蹴り上げ、退却を開始する。
「にげるにゃ?」
「ボクの判断ミスだ!」
「省吾さん、モン丸、こちらは頼みます!」
(目的は積み荷だと勝手に決めつけてしまった! 警護の人たちも守れたのに)
悔やみきれぬ思いを胸に少年の影が闇に溶け、追跡へと駆けた。
―――――――
王国騎士たちが現場に駆け付けたときには、破壊された鋼鉄兵と気絶した兵士だけが残されていた。
そこへ――。
「貴公たち、この状況は一体どういうことだ」
まだ声変わりが終わっていないのか、高く澄んだ声が響く。
青の光を纏った魂機兵が夜空に降り立つ。
続いて、七体の黒き魂機兵が整列した。
ルトーとノヴァが対峙している間に、裏門に回っていた他の魂機兵がルトーの背後へ合流する。
十四体もの魂機兵が、迎賓館前に集結した。
―――――――
ルトーは黄の魂機兵『カヅチ』から降り、ノヴァも青の魂機兵『アズレイア』から降りる。
ルトーが口を開こうとした瞬間、空気が歪み、世界が一瞬反転したような違和感が走った。
「何が起こった?」
「攻撃か!?」
背後の騎士たちがざわつくのを感じ、ルトーがそちらに気を取られた瞬間、大きな影がルトーに覆いかぶさる。
カヅチの盾がルトーの前身を覆ったのだ。その刹那、爆発音が響く。盾が震えた。
――攻撃か!? どこからだ? まさか帝国が?
ルトーは生身では危険と判断し、即座にカヅチへ再搭乗する。
「味方が、帝国の魂機兵が急に襲って来たんだ!」
先程の爆発で目を覚ましたのだろうか、気絶していた警備兵が騒ぎ立てる。
ノヴァも再搭乗したのか、青の魂機兵から声が発せられた。
「ルトー殿! 悪いが貴公たちを戦争の火種とさせていただく!」
「貴公らが悪いのだ。今更和平などと――世界は帝国の基で統一されなければならない」
この迎賓館の襲撃を王国側が仕掛けたように仕向けるのか。
ルトーは訝しむ。あの思慮深い少年がこのような行為に及ぶのかと。
「ノヴァ殿! それはあまりに無謀だ! 貴公も平和を望んでいるのではないのか!?」
「なあに、ここで貴公らを亡き者にすれば、真実を知る者はいなくなる。いくらでも情報統制は可能だ。平和とはな、帝国が統治した世界のことを指すのだ!」
「これは帝国としての意思か!? それとも貴公の独断か!?」
「それを貴公が知る必要はない! これ以上の問答は不要だ!」
(やはり違和感がある。彼らと相対したとき、向こうも混乱していたように見えた。それに先程の世界が歪んだような錯覚。裏に何かあるのか?)
ルトーが思考を巡らせる。
しかしその思考を遮るように、何かがカヅチの横を通り過ぎ、後方の部下たちにぶつかって爆発が起きる。
(もう、対話では止まらぬか……まずは機体に損傷を与え、
「青は私が相手をする。各位、後方の兵士たちに警戒しつつ迎賓館を守れ。戦争の口実を与えるな!」
そう言い放つと同時にカヅチとアズレイアが高速で突進し激突した。
―――――――
――刻を少し遡り――
ノヴァがアズレイアから降り、ルトーの言葉を待っていたその時、天地が逆になる錯覚を覚える。
整列していた部下たちが取り乱すのを制するために後ろを振り返ったとき、アズレイアが動き出しノヴァの身を盾で隠す。
その瞬間、爆発が起きアズレイアの盾が振動する。
――爆発!? 攻撃を受けたのか!?
追撃に備えて、ノヴァは再びアズレイアに飛び乗る。
「王国の魂機兵が急に襲って来たんだ!」
傍らで倒れていた警備兵が、先程の爆発で飛び起きたのか、騒いでいる。
ノヴァは内心で首を傾げる。
(王国が警備兵と街を破壊しただと? 意味が分からない)
「ルトー殿! これは一体どういうことですか!?」
「この者が言っていることは事実なのですか? にわかには信じがたい!」
迎賓館周辺と警備兵を破壊することで得られる王国側の利益があるのか。ノヴァには見えない。
「ノヴァ殿! 信頼してもらって光栄の至り。ええ、その通り。我々の手によるものだ」
「何を言っているのですか! これは外交問題の範疇を逸脱している。戦争を仕掛けて来たことと同義ではないですか!」
「まったくもってその通り。我々は貴公らに宣戦布告を申し上げているのだ」
「何を世迷言を! かの黄色卿の言とは思えない!」
(真意が読み取れない。先刻の違和感も気になる。何かを見落としているのか?)
ノヴァが考えを巡らせる余地を与えないかのように、アズレイアの側面を何かが横切り、後方の部下たちにぶつかり爆ぜる。
(攻撃まで! 話し合いでは埒が明かないか! ここでやられるわけにもいくまい。無力化ののち、尋問にかける! 私にルトー殿を制することが出来れば、だが)
「私は黄色卿を無力化する! 皆は他の魂機兵に警戒しつつ街の破壊を防げ! こちらからは攻撃を仕掛けるな!」
そう指示を飛ばしながら、背中の噴射口から青白い光を放ち、突撃する。
アズレイアとカヅチが激しくぶつかり合う。
―――青と黄の魂機兵、決戦の火蓋が切られた。
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