一ノ巻 災厄再び

一ノ巻 その一 ―再び目覚める災厄―

 かつて、空を裂き、地を焦がした天蜴人リザーディアン

 

 それは伝承の中だけの存在であるはずだった。


 だが今、森を揺らす轟音とともに、再びが目を覚ます。


 ―――――――


「あれが……いにしえより伝え聞く天蜴人なのか……」


 自らの背丈の十倍近い巨体を見上げ、騎士ルトーは息を呑んだ。


 森の木々はなぎ倒され、地面はえぐられ、その中心に突き刺さった隕石の陰から、それは姿を現した。


 光沢のある灰銀の鱗が全身を覆い、爬虫類を思わせるが、立ち姿は人と変わらない。


 長い首を前傾させ、背から尻尾をたなびかせている。


 兜をかぶり、目元はバイザーで覆われていた。


 可動を妨げぬよう計算された装甲が身体を包み、腰部にはいくつもの装備――おそらく武具――が吊るされている。


 ルトーは束の間、唖然としていたが、すぐに我に返り、二輪軍馬サイバイクから下馬した。

 

 その身を正し、叫ぶ。


「お初にお目にかかる! 貴殿がかの天蜴人とお見受けいたす! 我らは――」


 しかし、巨体は急に振り向き、その反動を活かして長大な尻尾を振るう。


「回避っ!」


 咄嗟の号令に反応し、ルトーと部下三人は同時に跳躍した。

 

 間一髪で脅威を避けたものの、彼らの二輪軍馬はまとめて吹き飛ばされる。


「対話をお願いいたす!」


 着地と同時に、ルトーは再び叫ぶ。


 だが、天蜴人は無言のまま振り向き、その腕が左腰の装備へと動いた。


(やはり聞く耳持たずか……いや、言語体系が違う可能性もあるか?)


 伝承には、彼らと意思を交わす手段など記されていなかった。


 判断を誤るわけにはいかない。


「仕方あるまい――各自、魂機兵アニマによる戦闘態勢!」


「「「御意っ!」」」


 号令が響くや、四人は一斉に短剣を抜く。


「我が同志、カヅチ!」「アーク、来て!」「頼む、ランス!」「ジークレインよ!」


 短剣の宝玉がまばゆく輝き、光は形を取り、巨人を成していく。


 顕現した四体は片膝をつき跪き、背に魔法陣マジックサークルを浮かべた。


 ルトーの呼び出したカヅチは全身を黄金色に輝かせ、他の三機は黒を基調としている。


 全長はおよそ五メートル


 金属質の身体は人型だが、頭は大きく、首は短い。


 胸部は厚く、腹部は球体構造で、広い可動域を確保している。


 関節部は球体ジョイントで接続され、足元も大きく造られていた。


 顔面は角ばった鼻と口をマスクで覆ったのようで、目には異なる材質の結晶クリスタルが埋め込まれている。


 武装は一切なく、背部と足裏に小型噴射口がいくつも設けられていた。


 四人の騎士がそれぞれの魔法陣に乗り、光に包まれて姿を消す。


 同時に、魂機兵たちが立ち上がり、操縦者の兜や鎧、武具が同調し、その全身に装着されていく。


「基本陣形――のち、攻撃開始!」


 ルトーの声が響いた瞬間、森に再び轟音と光が奔る。


 天蜴人との戦いが、再び、幕を開けようとしていた。

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