第16話 どんぐりなまこ

どんぐりなまこ


 潮溜まりに手を入れると、つやつやした楕円形の小さなものに触れることがある。

 もしもそれを見つけたら、あなたは手で掬って観察するに違いない。そして「どうしてこんなところにどんぐりが?」と、首を傾げるに違いない。更に頭の中で『どんぐりころころ』の歌が回り始めるに違いない。

 しかし、どんぐりがはまるのは池である。つまり潮溜まりであなたが見つけたのは、どんぐりではない。

 その生物の名前は、どんぐりなまこ。どんぐりに似た外見を持つ、たいへん可愛らしい棘皮動物である。


 どんぐりなまこは海底で生活する他のなまことは違い、岩場の潮溜まりに沈んで生活することを好む。理由は諸説あるが

『潮溜まりにはどんぐりなまこを餌にする大型魚がいないため』

という説が今のところ有力である。また

『どんぐりなまこの餌となる堆積物(有機物を含んだ土など)が潮溜まりに多く沈殿しているため』

という説も広く知られている。

 どんぐりなまこが好むのは、落ち葉や小枝がふんだんに含まれた土である。故にどんぐりなまこを探すなら、風の吹き溜まりになっている潮溜まりが最適だ。


 どんぐりなまこは、どんぐりの殻斗(いわゆる『どんぐりの帽子』)に似た形状の外皮が、体の約1/3を覆っている。イメージ的にはこちらが頭だろうと思われるが、実は尻である。殻斗の反対側に小さな口があり、そこから目に見えない細さの触手を出し、土の中の有機物を食べる。そして尻から有機物が取り除かれた砂と水を排泄する。

 どんぐりなまこも他のなまこと同様、土壌改良や水質改善に役立つ生物なのである。


 ちなみにどんぐりなまこは食べることもできる。

 おいしいと言われるのは細長く大きいどんぐりなまこで、フライパンで炒ると栗に似た味がするという。そしておいしいどんぐりなまこを食べた人は、あまりのおいしさにほぼ全員がどんぐりまなこになると言われている。

 しかし小さいものや丸いものは渋みが強いため、食用には適さない。


 近年、どんぐりなまこはその愛らしい形態から、観賞用として売買されている。だが飼育は意外と難しく、長く飼育するためには潮溜まりと同じ環境を作る必要がある。

 もしも同じ環境を作れないのなら、飼育は諦めた方がいい。

 可愛いどんぐりなまこが、「故郷が恋しい」と泣いてしまうかもしれない。

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