第14話 アイタカ

アイタカ。


 風に揺れる芒の音。

 響いては消える、虫の声。

 月は澄んだ空気に明るく、街に、森に、海に、蒼い陰影をつける。

 そんな静かな秋の夜長に、人恋しくなることはないだろうか。

 アイタカは、そんな気分を運んで来るタカ科の鳥である。


 アイタカは実に物静かな鳥で、飛ぶ時もほとんど音を立てない。また、滅多に鳴くこともなく、姿を探すのは通常ならば非常に困難だ。


 しかし、もしもあなたの心が何らかの原因でとても疲れていたら。或いは何らかの理由で悲しみを抱えていたら。

 そんな波長を捉えたアイタカが、音もなく巣を飛び立つ。そしてあなたの肩にそっと留まり、囁くようにひと声、鳴くのだ。


「会いたか」


 アイタカの鳴き声はつまり、あなたの心の声そのもの。

 この声を聴いたあなたはきっと、話したい人に電話をかけるだろう。あるいは直接、会いたい人に会いに行くだろう。


 アイタカの声、あなたの心に従って、話したい人と話せたら。会いたい人に会えたなら。

 あなたの心はアイタカの羽ばたきのように、ふわりと軽くなるだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る