第10話 うさぎ

うさぎ。


 うさぎという名前だが、ぴょんぴょん跳ねる、お耳の長い兎ではない。

 ばさばさと羽ばたく、長いお耳に似た冠羽を持つ鷺で、漢字は『羽鷺』と書く。

 ここからは、紛らわしさを解消するために『羽鷺』と記すことにする。


 営巣地として羽鷺が選ぶ場所は、主に綺麗な川が近くに流れている山林だ。他の鷺と同様、見晴らしの良い木の上に巣を作って子育てをし、川に入って魚を食べる。晩秋には収穫を終えた田畑に降り立ち、虫や鼠などを食べる。

 つまり羽鷺の習性は、他の鷺と同じである。

 しかし羽鷺だけが、なぜか猟師達に「鷺じゃなくて詐欺だ」と言われてしまう。


 羽鷺が『詐欺だ』と言われるのは、主に晩秋の頃。というのも、冠羽を立てて田畑に座る羽鷺は、遠目に見ると兎そっくりなのだ。


 羽鷺を兎と見間違えた猟師初心者が猟犬を連れて来ると、視力の良い羽鷺はすぐに飛び立ってしまう。そして近くにいた本物の兎も羽鷺の羽音に驚き、一目散に逃げてしまう。

 その直後に、羽鷺にも兎にも取り残された猟師が「騙された、詐欺だ」と悔しがる様子がよく観測される。しかし羽鷺は別に猟師を騙そうとしている訳ではないので、これは単なる言い掛かりに他ならない。

 人に勝手に詐欺呼ばわりされるなど、羽鷺にとってはいい迷惑だろう。

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