last twinkling|ひかりがひかる★★★★★★★★★



_聴こえた?

(うん、聴こえた)


_みんなの音

(みんなの音)


_ひかりの音

(わたしの音)


_そう

(うん)


_ひかり

(なに?)


_おわかれのとき

(えっ…)


_出口が閉じちゃう

(閉じたらどうなるの?)


_帰れなくなる

(そう…なんだ)


_それは困るね

(…うん)


_ひかりを待っているひと

(…いる)


_帰らなきゃ

(…うん)


_ひかりなら大丈夫

(…わたし、大丈夫かな?)


_ひかりなら大丈夫

(だけどね、時々ね、すごく不安になるんだ)


_ひかりなら大丈夫

(お兄ちゃんが見ててくれるから?)


_そうゆうこと

(…でも、寂しいよ)


_ずっと見守ってるよ、これからもずっと

(きらきら星になって?)


_きらきら星の光になって、ひかりを照らしているよ

(雨の日でも?)


_雨の日でも

(見えなくても?)


_見えなくても、ちゃんと見守ってる

(…うん)


_だから帰らなきゃ

(うん…でも)


_でも?

(どうやって帰ったらいいの?)


_ジンジャーが連れてってくれる

(ジンジャーいるの?!)


_ずっといるよ

(どこに?)


_感じて

(うん)


_ほら

(うん)


_かぎしっぽが揺れてるね

(ゆれてる)


_それにつかまって

(うん)


_ひかり

(なあに?)


_生まれて来てれてありがとう

(うん…)


_妹になってくれてありがとう

(うん…)


_ひかりが大好きだよ

(わたしもだよ!お兄ちゃん!)


 それ以上は音にならなかった。

 音になっていたのかもしれない。

 しかし、ひかりに聞こえることはなかった。

 兄には聞こえただろうか。

 きっと聞こえただろう。

 ひかりの視界をまばゆい光が覆う。

 耐えきれずにひかりの両の瞼は閉じる。






 猫が鳴く。













 猫が鳴いている。



 もういいよの合図。



 目を開ける。



 茶トラの猫がいる。



 そのかぎしっぽをひかりは握っている。



 向こうに誰かいる。



 見覚えのある顔。



 見知った顔。



 安心する顔。



「神崎さん…」

「ひかりさん」



 兄の声に似ているとおもった。

 たったいま聴いてきた兄の声に。



「神崎さん…」

「ひかりさん」



 懐かしい声。

 愛おしい声。



「神崎さん…」

「ひかりさん」


「あれ、わたしタイムリープしてますか?」

「3回が正しければ、してないと思います」


「うふふ、よかった」

「はい、良かったです」


「みんなは?」

 ひかりはこどもたちの姿を探す。


「大丈夫、みなさん、ここにいます」

 声の主はライトで周囲をぐるりと照らす。ひかりはひとりひとりに近づき、確かめる。


 わかな

 ゆきこ

 なぎさ


 大丈夫、みんな、いる。

 帰って来たのだ、それぞれの宇宙から。

 空を見る。

 宵の明星は消えている。

 あたりは暗い。

 夜の帳が降りている。

 でも、わかる。感じる。

 それぞれの命がより一層輝き始めたことを。

 誰からともなく四人は抱きあう。

 たがいの命を抱きしめる。

 三十六度の体温が平衡へ向かう。

 足元を三十八度の体温がすり抜ける。

 ありがとう。

 ひかりは心のなかで礼を言う。


「みなさん、寒いでしょう?温かいコーン茶と、カイロをどうぞ」

 山ノ神が言う。


「さっすが、神崎さん!」

 わかなが保温水筒に手を伸ばす。


「でか!おも!」

 手渡された存在感に驚きの声をあげる。


「さすがすぎる」

 なぎさが神崎さんを褒めたたえる。


「なぜコーン茶ですか?」

 ゆきこらしい質問だ。


「ノン・カフェインだからですよね?」

 ひかりは、先まわりする。


「………僕の好みです」

 申し訳なさそうに答える神崎さん。

 わたしの先まわりは、見事に失敗。


「このみかっ!」

 わかなが勢いよく突っ込む。



 猫が鳴く。



「ゆきこ、ジンジャーなんて?」

 ひかりが尋ねる。


「……わかりません」

 ゆきこが答える。


「え?」

 なぎさがゆきこを見る。


「ジンジャーは、ニャーと言います」

 ゆきこは首をかしげる。


「いや、それは、みんなそうだから!」

 わかながふたたび突っ込む。みなが、おもわず笑う。


 ジンジャーの声はもう聞こえない。


 ひかりにはその意味がわかる。

 ジンジャーだったものはひかりを照らす光へと戻ったのだ。いまは見えない光。だけど、見守ってくれている光。


「ひかりさん」


 呼ぶ声に連れ戻される。


「なんですか?」


 消えない光に向けて声を返す。


「お兄さんには、会えましたか?」

「はい!」


 返事を聞くと、消えない光の彼は、何遍も何遍も頷く。首を痛めやしないか心配になるほどに。


「ちなみに、この次の『長い月』は、二〇四三年の六月二十二日です」

「え、調べてくれたんですか??」


「ええ、もし会えていたら、次があるかもしれないと思いまして」

「すごい、ありがとうございます!」


 消えない光の彼に、何遍も何遍も頭をさげる。首を痛めてもいい。


「…それで、あの、」

「なんですか?」


「折り入ってご相談があるのですが…」

「相談?」


「ええ、まあ、嫌ならアレなんですが…」

「え、なんですか??」


「つまり、その、もしも、もしものもしも、仮によろしければの話であるようなないようなものの類いになるかと思われるのですが…」

「なんかまわりくどいなぁ、はっきり言ってみてくださいよっ」


「こ、ここ、こここ、」

「え、にわとり??」


「なんでやねん!」

「え、関西弁??」


「…おもわず出ただけです」

「あはは」


「それで、」

「それで?」


「今度、また、休みの日に会って欲しいのです」

「へ?」


「ですから、ひかりさんの休みの日、あ、もちろん、予定がないときで一向に構いません、お会いできればというご提案をさせていただいているのですが、万が一にも嫌でしたらどうぞお断りしてやってください、神崎、その覚悟は出来ておりますゆえに!」

「え、相談ってそれですか??」


「あ、嫌なら、大丈夫です。なしです、なし。きれいさっぱり忘れてください」

「わすれませんっ!!」


「え…」

「それ、案件じゃないですよね?!」


「じゃないじゃない、じゃないです!!」

「個人的に、という理解でよろしかったですか?」


「よ、よろしいかとおもいはす」

「はす?」


「あ、ます」

「神崎さん、国語、苦手でしたっけ?」


「いえ、割と得意な方でした…」

「はす?」


「ます!です!」

「うむ、よしとしよう!」



 この人だと、こんな関係もなぜだか心地よい。



「あの〜、お取り込みのところすいませんけど〜、そろそろ帰りたいんですけど〜」

 なぎさが語尾の母音に強めの想いを込めながら立ち入る。


「「取り込んでません!!」」


 ふたりに一度目の奇跡が訪れる。


「確信犯かよっ!」

 わかなが三度突っ込む。彼女の才能がきらりと光る。


 笑いが起こる。


「じゃあ、みんな無事ってことで、帰ろっか」

 四人がめいめい同意の言葉を発する。



 猫が鳴く。







__次に願いが叶うのは、二〇四三年の六月二十二日です。



 向かいに座る彼が教えてくれた言葉だ。



 え、そしたら、次にお兄ちゃんに会えるときは、わたし、もう、おばさんじゃん!わたし、まだGHで働いてるかな?結婚してるかな?子どもはいるかな?うーん、わかんないや。だけど、ひとつだけ、確かなことがある。それは、



 子どもができたら、名前は決めてあるということ。

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