The beginning of|あかり★★★★
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ママな太客の連れだけあって、富か、権力か、もしくはその両方がある組織の人間なのだろうということは、すぐに分かった。日向であるにせよ、陰日向であるにせよ、それらは社会の絶対的な共通言語であった。たとえ、共同幻想に過ぎなくとも。
互いの干からびた愛情は水分を欲していた。乾くことのない飢えを満たすための相手と機会を虎視眈々と探していたのだ。素性などはどうでも良かった。危険な人物であろうと、傷つくことが分かっていようと、近づくことを禁じ得る柵にはならなかった。ふたりは逢瀬を重ねていった。
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ひかるは手の掛からない子だった。
最初こそ、不慣れな子育てに手こずっていたが、発育も良く、体は丈夫だった。元気過ぎることを除けば、特に、気になることはなかった。育児など、得意な園に任せておけば良いと思うようになっていた。手を掛けない分だけ、しっかりと愛情は薄れて行った。ひかるは、コウの消えない傷跡の象徴であった。コウへの執着は、朔への依存に変わって行った。
あかりは、
降り積もる雪が街を覆った二月、
再び、あかりの月のものも消えた。
妊娠したことを
それでも、あかりは朔に縋った。
朔に捨てられれば、あの穴が剥き出しになる。穴は治癒できないほどに傷つけられた場所だ。表面を覆う瘡蓋の下の傷は癒えてなどいないのだ。これまで癒せないまま生きて来たのだ。じゅくじゅくと血が滴る生傷のままあるのだ。剥がされれば、また、満たされぬ飢餓感と絶望と痛みを抱えることになる。あかりには分かっていた。
それでも縋るほかなかった。
次第に、朔は、姿を見せなくなっていった。姿を見せるのは、直接、金を受け渡すときだけになった。それでも、朔を繋ぎ止めておくためならばと、あかりは金に頼った。気が向けば、朔は、あかりを抱いた。熱い体温の目合りではなかった。冷徹な束縛に近いものであった。繋がるためのものではなく、繋がりを逸した行為だった。そのように自分が傷つけられることで、あかりはほかの痛みから目を背けることができた。それでも十分だった。はずだった。
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四季の移ろいに反して、街が賑やかな色で着飾り始めた十二月、あかりは臨月を迎えた。そして、ふたりめの子を産んだ。女の子だった。
朔は、認知もしなければ、我が子を抱くこともなかった。ふたりの子は仲良くあかりの戸籍に並んだ。実父の欄も仲良く空白であった。保健師から支援センターを紹介されたが、行くことはなかった。朔の暴力、凌辱、搾取、拘束は常態化し、あかりは、その都度、凍結と解凍を繰り返した。記憶は、ところどころ、古びた8ミリフィルムのように切り落とされ、どこかへ捨てられた。いつ終わるともしれない嵐のなか、あかりに出来ることはなかった。ただ、大木の朔に縋るほかに。たとえそれが、根の腐った見せかけの姿だったとしても。虚栄心も、歪んだ自己愛さえも持てぬあかりには、自らを投影するには足りた。時折、与えられる甘い汁は、やはり、甘かった。強い苦味も含んではいたが、それは無視した。だから、迎合という生存戦略を選んだ。無意識的に。
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あかりは知った。
子を産んでも親になれる訳ではないことを。
あかりは知った。
子を産んでも母性が芽生える訳ではないことを。
あかりは知った。
子を産んでも愛情が湧いてくる訳ではないことを。
あかりは知っていた。
何よりも愛されたいのは自分であることを。
あかりは知っていた。
すべてはその代償行動に過ぎないことを。
そして、あかりは知っていた。
けして満たされることはないということを。
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穴は塞がることなく、ただ、そこにあった●
あのときと同じまま。 ・
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・
あ
か
り
は
穴
へ
落
ち
て
い
っ
た
。
記憶は、
そこ、
かしこに、
散らばっ
た
。
。
。
。
雨
粒
の
よ
う
に
。
ぽ
た
ぽ
た
ぽ
た
。
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