第5話 お前は待機してろ
北の砦でのオーガ討伐から数日後。
勇者アレン一行は、王都に凱旋した。
「勇者アレン様ばんざーい!」
「オーガを退けた英雄だー!」
沿道に押し寄せる民衆の歓声。紙吹雪が舞い、花びらが飛ぶ。
アレンは白馬にまたがり、爽やかな笑顔で手を振った。その姿に婦女子は卒倒寸前。
「やっぱり勇者様ってかっこいい〜♡」
「顔が尊い〜!」
隣には聖女リリスをはじめとする美女四人。
きらびやかなドレス姿で、勇者様の両脇を固める。
……そして最後尾。
「いやぁ〜!勇者様の笑顔に負けじと、こちらも筋肉スマイルでぇ〜す!」
大きな荷車を二台、素手で引くレントの姿があった。
片方には討伐の証である巨大なオーガの死体。もう片方には王宮への献上品。
そして背中には相変わらずテント、樽、ローション。全部のせだ。
「なんか最後尾に怖いのいるぞ……」
「筋肉むき出しで笑ってる……」
「こわっ……」
民衆はざわついた。黄色い歓声は勇者に集中し、レントには「怖いもの見たさの視線」しか向けられない。
「おい、レント。ちょっと離れて歩け」
勇者アレンがひそひそ声で命じる。
「はいぃっ!アレン様の神々しいお姿を引き立てるため、私は物陰から覗く程度でぇ〜!」
「キモッ」
即罵倒。しかも今回は兵士の声までハモった。
パレードは王宮前で最高潮を迎える。
王と大臣たちが玉座の前に立ち、勇者パーティを迎えた。
「勇者アレンよ。よくぞオーガの群れを退けてくれた!」
「ありがたき幸せ!」
アレンが剣を掲げ、民衆は「おぉぉー!」と歓声を上げる。
リリスや仲間の美女たちも花束を受け取り、喝采を浴びる。
だがレントは……。
「お前は誰だ?」王の視線がレントに向いた。
「いやぁ〜!私は勇者様の影に控える、荷物持ち兼雑用係でしてぇ〜!」
筋肉でできた笑顔で胸を張る。
「荷物持ち?雑用係?……なぜ式典に立っている」
「いやぁ〜!たまたま筋肉が余ってましてぇ〜勇者様方の端くれといいますかぁ~!」
「キモッ」
玉座の上から即罵倒。もはや様式美。
――式典後の控室でリリスがボソッと呟く。
「ねぇ、やっぱりレント、いらなくない?」
「そうだな……王様にもキモいって言われてたしな」アレンが苦笑する。
「そもそも式典に連れていく必要なかったよね」
「むしろマイナスな印象を与えただけ?」
女メンバーも口々に言う。
その時とびらが開くと、兵士が血相を変えて飛び込んできた。
「報告!西の森に魔獣の群れが現れました!」
一気に空気が張り詰める。
「行くぞ、みんな!」
「はいっ!」
レントも立ち上がった。
「いやぁ〜!魔獣さんたちとも筋肉で語り合う時が来ましたねぇ〜!」
「……お前は待機してろ」アレンの声は冷酷だった。
こうして勇者パーティは再び戦場へ。
だが、レントは置いてけぼりにされるのであった。
「いやぁ〜……でも皆様のためなら、待機もまた筋トレになりますぅ〜!」
筋肉でできた笑顔―― 誰も見ていなかった。
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