王子様なんていらない

第1話 王子様なんていらない

強気百合

薄暗い公園に響く打突音と、壁に人間が叩きつけられる音。


「次こいつに近づいてみろ、今度はこの程度じゃすまねぇからな」


ジュリはくすんだ金髪のポニーテールを揺らしながら、ドタドタと足音を経て逃げる男に背を向けた。


「……お前さぁ、なんで毎回変な男に惚れられんだよ」


ジュリは手首をコキコキと鳴らし、呆れた様子で私を見た。


「わからない……ただの、お友達だと思ってたのに」


「ただの友達は帰りにあとつけたりしねぇんだよ」


「それはそうだけど……」


どうして私はいつもこうなんだろう。

困ってる人がいたら、助けずにはいられなくて。そこから段々仲良くなって。段々と相手の様子がおかしくなっても、離れていくのは心苦しくて。


最終的にあとをつけられ、腕を掴まれ、すんでの所でジュリに助けられる。


子供の頃からずっと繰り返されたこれは、もはや私達のルーティーンと化していた。


「お前が毎回優しくし過ぎるからだろ。いい加減、いい子にすんのやめたらどうだ?」


ジュリは大きく息を吐いてから私の手首に触れる。

先程の男の手形がくっきりと残ったそれを見て、ジュリは忌々しそうに顔を歪めた。


「もう二、三発殴ってやりゃよかったな」


「気持ちは嬉しいけど物騒なこと言わないで。今度はちゃんと気をつけるから」


「お前この前も同じこと言ってたじゃねぇか。メアリーが気ぃつけても変んねぇよ。せめて恋人でもいりゃあ違うかもしれねぇが」


ジュリはガシガシと頭をかいてから、ふと動きを止める。

美しいライトブラウンの瞳が、ゆっくりと私を捉えた。


「……いっそ、あたしと付き合うか?」


「へ……?」


月明かりに照らされたジュリの頬には、わずかに赤みがさしていて。


それが、私の鼓動を加速させた。


「はっ、なんてな。冗談だよ。……いつかあたしの代わりに守ってくれる王子様が現れる。それまでは、仕方ねぇから面倒見てやるよ」


ジュリは私の頭を優しく撫でてから、ふっと顔を逸らす。

その仕草が何故か酷く妖艶に感じて、私は思わず息を呑んだ。


「じゃ、じゃあ……もし現れなかったら、ジュリがずっと守ってくれる……?」


ジュリはぴくりと肩を揺らしてから、ぎゅっと瞼を硬く閉じる。


「……そんときゃ、そうするしかねぇだろ」


ため息混じりに吐き出されるその声。


それを聞いた瞬間、体が燃えるように熱くなる。


私を撫でるジュリの手にそっと自らの手を重ねる。ぴくりと跳ねたその手が、熱った私を冷やしてくれる。それが、とても心地よくて。


もしここで唇を寄せたら、ジュリはどんな反応をするんだろう。


王子様なんて、ずっと現れなくていいのに。


そんなことを考えてしまう私はーーーいけない子なのかもしれない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る