第17話 夏の残響― 適合度120%


電子音が騒がしい。ゲーセンなんて、久々だった。


「よく来るのかよ」

「いや,久々だな」

魁斗と上条は、格闘ゲームの筐体に並んで座っていた。カチャカチャとボタンを叩く音、周囲の歓声。


「よっしゃ、トドメ!」

上条が必殺技を決め、魁斗のキャラが吹っ飛ぶ。


「くそっ……また負けた」

「弱えな、七五三」


肩をすくめてコインを投げ入れると、魁斗はむっとした。

「もう一回だ」

「おう、付き合ってやるよ」



「さっき、藤崎警視総監に事件の話チラッと聞いたんだ」上条に俄かに緊張が走る。


「へーなんて言ってた?」

「国民を安心させるためだ。みたいなニュアンスだった....なんか、やっぱりパフォーマンスみたいだな」

「だろうな。ヤラセだろ」

「ああ、そんな雰囲気だった」


「こっちにこいよ」


二人は隣のコーナーに移り、今度は恋人同士で相性を診断するペアゲーム。


「七五三と俺との相性をみてやる」

「え?やりたくねーよ、こんなの!」

「まあまあ。ベストカップルさん。ムキになるなよ。暇つぶしだろ」


タッチパネルの質問に答えていくと、

画面に「判定中……」と表示が出た。


次の瞬間。

「現在の適合度──55%」


上条が爆笑した。

「ははっ、微妙だな。俺ら相性悪いってよ」

「当たり前だろ!」


「まあまあ。七五三、力抜けって」

「だから七五三って呼ぶな!」


光が走り〈相性 67%〉と表示された。

周りから「微妙〜!」と笑い声が上がる。


「ほらな、やっぱり合わねぇんだよ」

魁斗が腕を組み、そっぽを向く。


上条は口角を上げ、画面を指さした。

「じゃあさ……“魁斗”って呼んでやる」


「は? なんで」


「魁斗」


瞬間、画面が眩しく光る。

〈相性 84%〉


「おっ!上がった!」

「なっ……嘘だろ」

魁斗の頬が熱を帯びる。


上条は面白がるようにニヤリと笑う。

「な? ちゃんと“名前”で呼べばいいんだよ」


上条はわざとらしく肩をすくめ、耳元で囁いた。

「決まりだな。もう“金矢”とは呼ばねぇ。これからは——魁斗な」


「バカかお前」

「じゃあ次な……“晃”って呼んでみろよ。


「……はあ?」

「俺の下の名前。言えんのか?」


周囲の友達たちが「言えー!言えー!」と囃し立てる。魁斗は耳まで真っ赤になりながら、しばらく黙り——。「——晃」


──ピコン!


画面が一瞬明滅し、大きな文字が弾ける。

「適合度120%!!!」



歓声が弾けた。

「やば!カップル超え!」

「相性120%って何だよ!」


魁斗は両手で顔を覆った。

「ふざけんな……っ!」


魁斗が飛び退くと、周囲の高校生たちが「おおー!」と歓声をあげた。派手なハートマークが画面を埋め尽くす。


上条は腹を抱えて笑った。

「見ろよ、俺ら運命だってさ!」

「クソッ、またコイツに揶揄われた。こんな機械のせいで……」


言いかけた魁斗の頬が熱くなる。横を見ると上条の笑顔はからかい半分、けれど瞳の奥は真剣だった。


歓声と笑い声に包まれているはずなのに、魁斗にはもう何も聞こえなかった。耳に残るのは——自分の名前を呼ぶ“魁斗”の声だけ。


胸の鼓動は、魁斗は顔を逸らしながら、強く心臓を押さえた。


晃はゲームセンターのネオンを背に、ふと立ち止まった。


「なあ、魁斗」

「ん?」

「親父の展示会があるんだ。お前ならこの価値がわかる気がする」


魁斗は、その真剣な横顔に思わず息を呑んだ。さっきまでゲーセンのネオンに照らされていた晃の瞳が、今は別の光を帯びているように見えた。


「展示会……?」

「そう。昔親父が関わった“ブルーホライゾン”の展示だ。久遠司と昔、組んでいたんだ」


晃の声は、ゲーセンの喧騒とは対照的に低く静かだった。


「国の公式イベントってこと?」

「まあ、表向きはそうだな。華やかで最先端で、スコアも賞金も出る。国の福祉に還元とか大義名分もちゃんとある」


晃は淡々と口にする。

「だけど、みて欲しいのは原画なんた。——本物のキャンバスに描かれた絵はCGよりずっと深い。あれを見たらたぶんお前も何か気づく」


魁斗は、その真剣な横顔に、思わず息を呑んだ。

さっきまでゲーセンの光に照らされていた晃の瞳が、今は別の光を帯びているように見えた。

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