第13話 夏の残響―揺れる未来

学校から帰ってくると、

母から、嬉しそうに声をかけられる。


「魁斗、よかったわね。竹Aクラスに確定、おめでとう。これで里桜ちゃんのご両親も安心するわね」


早速祝いの言葉だ。


魁斗はベッドに倒れ込み、天井を睨んだ。


——これで、俺の未来は決まった。

竹A、里桜、適合。誰が見ても幸せだろう。


俺以外は。


「……バカらしい」

枕に顔を押しつけて吐き出した声は、思った以上に弱々しかった。どっと疲労感が押し寄せる。意識はすぐに沈んでいく。



枕を抱え、何度も寝返りを打つ。頭に浮かぶのは昼間の里桜の笑顔と夢の中の上条。


眠れない。


「はぁ……何考えてんだよ」


そのとき。


——コン、コン。


窓ガラスを叩く音。驚いて身を起こすと、外に人影が見えた。覗き込むと、夜の街灯に照らされる上条。


「……は?」


彼は笑いながら、手を振った。足元にはクラシック風のフロートライドカー。低く唸るエンジン音が夜を震わせる。


「起きてんなら行くぞ、魁斗」


心臓がドクンと鳴った。窓を開けると、夜風が冷たく頬を撫でる。


「おい、なんでここに」

「ヒマだから。つーか、検定の結果どうだった?」

「竹A……」

「そっか。じゃあ、オレと同じだな」


上条は無造作に笑った。

それだけなのに、魁斗の胸に熱が広がった。


「行くぞ」

「……どこにだよ」

「いいから。風に当たれば少しはマシになる」


強引に誘われるまま、魁斗は車に乗り込む。夜の街を滑るように走り抜けるフロートライドカー。ネオンが窓を流れ、海辺の潮の匂いが漂ってくる。


魁斗はシートに背を預けながら、視線を横に向けた。ハンドルを握る上条の横顔。真剣な眼差しと、無邪気に笑う口元。


「……夢じゃ、ないよな」


その言葉は、喉まで出かかったけれど、

魁斗は口を噤んだ。


代わりに、夜風に掻き消されるように小さく呟いた。

「なんなんだよ、俺……」


上条は聞こえていないふりをしたまま、前だけを見ていた。


「どこに行くつもり?」

魁斗が問いかけると、ハンドルを握る晃の口元がにやりと笑った。


「……俺の一番好きな場所」


その言葉は、夜風よりも鮮烈に胸に響いた。

魁斗は思わず視線を逸らす。

(好きな場所か……俺にはそんな場所ないかもな)

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