シーン第二神殿物語

猿蟹月仙

プリム、都会へ行く

第1話『ある日常の』


 パァァァァァンンンンンン……

 

 それと判る破裂音が、ひなびた街中に響き渡った。


 広い戸口から屋内へと延びた小柄な影のその向こう、尻もちを着く男と、それに向けられた細長い銃口。そこから紫煙がたなびいていた。

 

「ひ、ひぃぃぃぃぃぃ!!?」


 裾の長い黒い貫頭衣からすらりと伸びた銃身は、一人のシスターから生えていた。

 薄暗い神殿。黒衣の下、滑らかな白いふくらはぎが異様に艶めいて見え、一瞬の静寂の中に鎮座していた。


「帰んな……」


 そして、その一言が妙に響く。

 女としては長身の部類に入るだろう。

 シスターは、男の足元へ向けた銃口を、ゆっくりとその眉間へと持ち上げていく。


「ふっ、ふざけんなっ……」


 辛うじて僅かに後ずさった男は、周囲の人々が思い出した様に漏らし出す悲鳴や騒めきに後押しされたか、何とかそれだけを絞り出した。

 一見して堅気の者では無い。

 薄汚れた革鎧。腰には短めの剣を佩き、黒い帯がだらしなく覗いている。

 この街では珍しくない、冒険者という類のヤクザなごろつきだろう。

 ひょろりとしており、戦士や魔法使いといったクラスで無いのは一目で判る。


 それをまるで汚物でも見るかに、フードの下より白銀の瞳が見下ろしていた。

 そして、その唇より漏れ出る侮蔑の響き。


「あ~ん?」


「あ、あいつを! あいつを帰しやがれっ!!」


 それを見返す男は、一瞬にやりと卑しい笑みを浮かべた。

 一足飛びに起き上がるや、素早く腰の得物に手を回す。

 突きつけられた銃口は、既に一発放っている。

 男は知っていた。次の弾丸を装填しなければ、それもう撃つ事が出来ないと。


 そして、その隙を与えないぜっ! へへへっ!!


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