Side story1 眠れない夜

 優花が帰った後、部屋に一人残された私は、扉を閉めてから大きく息を吐いた。

 胸の奥がざわついて、鼓動がやけにうるさい。落ち着こうとしてもさっきの出来事が頭の中をぐるぐると巡って落ち着くことなどできなかった。

 「キス、しちゃった……」

 小さく声に出すと、頬が一気に熱を帯びた。言葉に出した事で、実感が押し寄せてきて顔を覆いたくなる。

 唇に触れると、まだそこに残る熱を感じた。柔らかい感触が、鮮明に蘇る。

 思い出す度に心臓が早鐘を打って、もうどうにかなってしまいそうだった。

 枕に顔を埋めて転がる。

 「あぁ……どうしよう。見られちゃった……! 引かれなかったけど、無理ぃ……!」

 引かれなかったものの、欲望のままに書いたものを本人に見られたのだから、恥ずかしいに決まってる。

 羞恥心を誤魔化そうと、ゴロゴロ転がったり、バタバタと足を動かすけれど、消えそうにはない。

 それにさっきの優花の瞳、熱を帯びた視線……そして、私の名前を呼んだ時の甘さのある声……。

 それは、一体何だったのか。優花が何を考えているのか、読めない。

 もしかして、優花も……?

 一瞬、胸の奥に小さな希望が芽生える。けれど、すぐに打ち消した。

 「そんな……都合のいいこと、あるわけないじゃない」

 私は枕をぎゅっと抱きしめて、震える声でそう呟いた。

 優花は、優しいから……私が傷つかないように、合わせてくれてるだけ。

 本当は気持ち悪いって思っているかもしれない。言わないでいてくれただけかもしれない。

 ……でも。

 もし、もしも、あのキスが本心からのものだったのなら。

 私のことを同じように思ってくれていたとしたら……。

 「……だめ。期待しちゃ、いけない」

 自分にそう言い聞かせる。

 夢を見すぎてはいけない。舞い上がってはいけない。

 だって、優花がどう思っているのかなんて、わからないのに、こんなこと……。

 けれど、唇に触れた指先は、またあの甘い感触を探してしまう。

 心臓は痛いほど高鳴って、眠れる気がしなかった。

 「どうしよう……」

 顔を両手で覆って呻いた。頭の中は優花のことでいっぱいで、少しも静まってくれない。

 眠ろうとしても、まぶたを閉じる度に浮かぶのは、さっきの唇の感触と、優花の熱を帯びた瞳。

 ベッドに転がって、枕を抱きしめて、何度も寝返りを打つ。

 ーー結局、その夜は一睡もできなかった。

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