第13話 ロシアの空 3
「敵機、射程圏内に入りました!」
ヴィマナの管制室に緊迫した声が響く。電測員が短距離レーダーに映る複数の敵機を確認し、即座に報告を上げた。
ゲーリングは冷静に指示を下す。その青い瞳は微動だにせず、眼前のホログラムモニターを見据えている。
「重力操作」
「了解、重力操作」
ヴィマナのオペレーターが即座に応じ、重力操縦桿を握る。ゲーリングは右手を掲げると、次の瞬間、一気に振り下ろした。
「敵を叩き落とせ」
その指令とともに、ヴィマナの外部構造が低く振動し始める。そして、見えない力が周囲の空間を歪ませた。
次の瞬間、レーダー範囲内にいた戦闘機群が突如として制御を失う。計器が狂い、エンジンが悲鳴を上げる。パイロットたちは必死に操縦桿を握るが、無駄だった。重力の異常な偏向によって機体が強烈に引き下げられ、次々と回転しながら墜落していく。
「な、何が起こった!?」
Su-57改の操縦桿を握るウラジミール・ベアード少佐は、機体の挙動に異常を感じた。彼は重力操作の射程圏ぎりぎりを飛行していたが、片翼が突然引きずり込まれるような感覚に襲われ、制御を失いかける。
コックピットのスクリーンに映るのは、仲間たちが次々と地上に叩きつけられる無残な光景だった。
「クソッたれが!!」
彼は怒りを噛み締める間もなく、敵機が背後を取ったことを察知する。本能が警鐘を鳴らす。即座にスロットルを引き、急旋回して回避。わずか数メートル後方を敵の機銃弾が通過し、コックピットをかすめる。油断は許されない。これは死と隣り合わせの戦場だ。
戦士たちは、仲間の死を悼む暇などない。ただ生き延びるために戦うのみ。
空と海が交錯する戦場。戦闘機が入り乱れ、爆音と閃光が空を裂く。ベアードの部隊に残された策は、ただ一つ。しかし、すでにタイミングを逃していた。
「こうなったら、無理矢理にでも……」
そう考えた刹那、通信が入る。
『こちら、ベルゴロド潜水艦。CSTO加盟国と共に加勢する』
「無事だったのか!?こちら、ウラジミール・ベアード少佐。この残存勢力を指揮している」
『何か策はあるか?』
「ああ、上空で爆撃機を待機させている。奴らに隙を作れれば——」
『なるほど、それならば何とかできるかもしれん』
「何!?」
その直後、ヴィマナのレーダーから敵機が次々と消えていく。
「ハハハッ、腰抜け共め」
ゲーリングは冷笑を浮かべる。
「味方機に通達、数機撃墜したのちに退け。我らの恐ろしさを知る者が必要だ」
その時だった。ヴィマナのMAD(磁気異常探知装置)が異常な地磁気の乱れを感知する。
「潜水艦です。あれは……」
「!?」
ゲーリングの脳裏に、この海域の地図が浮かび上がる。
(ここは、日本の海上自衛隊によって我々の潜水艦が撃沈された場所に近い。もしロシアの潜水艦が生きているとすれば——)
「核ミサイルだ。重力砲準備、急げぇ!!」
「了解!!」
ヴィマナの下腹部が開き、大砲が姿を現す。同時に、暗い海面を裂きながら黒き潜水艦がその全貌を現した。
時代と共に改良を重ねたベルゴロド潜水艦。飛翔型ミサイルの搭載を可能とした最新鋭の艦。その発射管には、魚雷型核兵器「ポセイドン」と並ぶもう一つの恐怖、全知全能の神の名を冠した核ミサイル——「ゼウス」が格納されていた。
発射装置が唸りを上げる。神は、神の領域に足を踏み入れた者に裁きを与えんとする。
「「放てェ!!」」
核ミサイルが火を噴き、ヴィマナへ向かって発射される。それを観測したヴィマナも即座に重力砲を発射。
刹那——
閃光が世界を包み込んだ。
目が焼かれるような光が空を裂き、次いで闇がそれを収束するように稲妻を放ちながら消えていく。
天と海を分かつ死の閃光が、戦場を新たな局面へと導いていくのだった——。
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