嘱託捜査員ケイ【ミステリーサスペンス】

三日月未来(みかづきみらい)

第1話 パズルの断片

 黒髪のポニーテールに長身の葛城恵子は平井警部から渡された名刺を夫の進一に手渡す。

坊主頭の進一は、名詞の写真を見ながら呟いた。


「ケイ、この人だよ。トリカブト事件で殉職した警部さん」


 進一の言葉に恵子の表情が一変した。



   ⬜︎⬜︎⬜︎



「恵子さん、大丈夫ですか」

「あっ、丸山警部、なんでここに」


「平井警部の幽霊事件の噂で、急遽休日出勤をお願いされて・・・・・・ 」

「幽霊事件ですか?警部 」


「仲間内では、その方が面倒じゃないので」

「じゃあ、幽霊じゃないのですか」


「ちょっと込み入った警察の事情があって、口外できない時の隠語です」



 進一がおもむろにに丸山警部に尋ねた。


「あの警部、それって、もしかして囮捜査ですか? 」

「人前じゃ言えないことあるでしょう。トラップも必要に応じて種を蒔きますよ」


「なるほど」

「シン、なに勝手に納得しているのよ! 」


「そんなことないけど、丸山警部、そうでしょう」

「奥さん、ご主人の言う通りなんですよ。人前ですから」



   ⬜︎⬜︎⬜︎



 丸山警部の部下の門田警部補が大柄な身体を揺らしながら丸山の前にで近寄った。

シルバーグレー色のスーツがキラキラして、遠目にはヤクザにしか見えない門田警部補。

大食いで茶めっけのある門田だが、角刈りと図体のデカさが不釣り合いだった。


「警部、これから前の事件の件で、水神橋の骨董屋に寄るんですが」

「おおおお、門田君、忘れてたよ。じゃあ、葛城夫妻もご一緒に」


「丸山さん、お邪魔じゃないかしら」

「奥さんとご主人は、この間の私の面接でーー 嘱託捜査員の試験に合格していますよ」


「ええええ、面接って・・・・・・ 」

「シンちゃん、この間言ったじゃない」


「ケイ、でもあれは、事件で中止になったんじゃないですか」


 丸山が恵子の言葉を遮り言った。


「私には、人事権もあるんですよ。なので私が採用と言えば決まりなんです」


 葛城進一は半ば呆れた表情を滲ませ、丸山と門田を交互に見ながら頷くだけだった。


 門田はスーツのポケットからマッキーのハンバーガーを取り出して齧っている。

チリソースとガーリックの匂いが葛城夫妻の鼻に纏わり付く。


「警部、そろそろ移動していいですか」

「お前はハンバーガーどうする」


「これなら問題ありません」


 4人は門田に案内されながら、路上にしていた黒塗りの覆面パトカーに乗車した。

 門田は2個目のハンバーガーを取り出し齧っている。


「門田さん、お顔にソースが」

「葛城捜査官、ありがとうございます」


「捜査員ですが」

「どっちでもいいじゃないですか? 」


「そうね、通じれば問題ありませんわね」

「でも、葛城夫妻を呼ぶ時、警部ならどうしますか」


 門田の唐突な質問に丸山も門田と同じ角刈りの頭を掻く。


「苗字でなく名前で呼ぼう」

「シン捜査員、ケイ捜査員。でも、それじゃ面倒だから。シン君、ケイ君でどうかな」


 進一と恵子は顔を見合わせ笑いを押し殺すのに必至になった。


「丸山警部もユーモアあるんですね」

「ケイ君、違うよ門田の毒の性だよ」



   ⬜︎⬜︎⬜︎



 場外馬券売り場が近い通りを入った神川かみかわ沿いに、水神橋の骨董屋の黄色の看板が見えて来た。

 トリカブト事件のあとの未解決事件の職質が捜査の目的だ。


 門田警部補が前回と同じように、骨董屋のインターホーンを鳴らそうとした。

鏡のように輝いているシャッターに写り込む門田自身を見て微笑む練習にシンとケイは見ていない素ぶりをした。


 弱い風に乗った神川の嫌な臭いが4人の鼻を付く。

七夕祭りが過ぎた真夏の昼下がり気温がグングン上がっていた。


 恵子と進一は小さな扇子で顔を煽っている。

百戦錬磨の丸山は暑さを我慢していたがスーツに汗染みが見えた。


 目の前の高級なステンレスシャッターがゆっくり上がり、セーラー服姿の少女が顔を出した。

 門田警部補が少女の前に進み出て声を出そうとした刹那、少女の声が門田の声に重なった。


「門田さん、お待ちしていました」

「この間の紫色のトリカブトだが・・・・・・ 」


 少女は門田の前に紫色の花を差し出して言った。

「はい、これです・・・・・・ 」

「・・・・・・ 」


 門田の言葉は近くの高速道路の騒音に掻き消された。

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