第2話 初陣!即落ち!フラレッド!!

 先程まで沈んでいた気分が嘘の様だ。

 心も身体も羽のように軽い。

 そして、悪への怒りがふつふつと燃え上がってくる。


 正義の執行。大切な人の貞操を守る。

 そのために俺は、全力で駆ける!!


「待ってろよ、未恋さん!俺が君を守る!とうッッッ!!」

 ……勢い余って「とうッ」と言ってしまったが、ただの小さめ立ち幅とびだ。軽くつまずいてしまい、周囲の人から変な目で見られたのはここだけの話だ。


 頭に響く声の主が誰なのか、この湧き上がる力はなんなのかーー今はどうでもいい。

 疑問は多いが、そんなことは未恋さんの貞操を守ってからだ!!


 ものの数秒でホテルへ到着。

 …疲労困憊だったせいだろう、実際は20mも走れていなかったらしい。



「…部屋がわからん!」

 当前の問題が浮上する。


『安心しろ!今の君なら心を研ぎ澄ませば、自ずとわかるはずだ!!』

「ええ…いや都合良すぎんか」


 ここは疑っても仕方がない。

 悪の存在を感じるべく、心を研ぎ澄ませたーー


「…えっ!?本当にわかった!チートすぎん!?」

『その調子だ!急げ!!』




ーラブホテルの一室


 ベッドに座る未恋と、バスタオル一丁のチャラ男が立っていた。


「ふふふ、さあ、リラックスするんだ。身も心も、俺に預けるんだ。なあに、怖くない…。」



ドガァァン!!!



 けたたましい破壊音とともに、全身真っ赤な不審者がプライバシーを侵害した。


「そこまでだッッッ!!!」

「誰だ!?」

「俺は、失恋の炎、フラレンジャーレッド!」

「なんだと!?」


 ー初の悪との対峙に、緊張が走る。


「フラレンジャー…だとっ!仲間がいるのか!」

「いや、俺一人だ!」

「えっ」

「えっ?」

「一人なのに、レンジャー?」

「……。」

 妙な空気が、2人の間に流れる。



 未恋に目をやる。まだ何もされていない様だ。ただ、様子がおかしい。一点を見つめるだけで反応がない。


「てかてめぇさ、何しに来たんだよ!」

「貴様の様な悪を見逃すわけにはいかない!」

「は、はあ?俺が悪?どこがだよ」

 若干の動揺を見せるが、嘲笑う様にチャラ男は言う。


「悪ってなにそれ?てめぇよぉ、俺の何が悪って言ってんの?」

「彼女の貞操を守る!貴様は彼女の貞操を奪おうとしている!」


「どこの誰だか知らんけどさ、関係ないじゃん」

「その人は、俺の、その…大切な人だッッ!!」

「は?お前それって…。」


 チャラ男の表情が、神妙から呆れた疑念へと変わってゆく。


「ただの嫉妬じゃねえか!」

「あうっ…!」


 ぐうの音も出ない。思わず、たじろいでしまう。


「男女がヤることヤんのは自由だろ。お前に止める権利あんのかよ」

「いや、それは…」

「出てけよ」

 反論できない。

「出てけっつってんだよッ!邪魔すんな!!」

「はっ…あう…はい。」


 普通に論破された。

 完全に「嫉妬に狂ったヤバいストーカー」ムーブである。


(あ、あれ…本当に帰った方がいいのでは?)


ーーその時


『何をしている、敵を攻撃するんだ!』


 ある意味容赦ない激が頭に響いた。

(嘘だろ!?強引すぎんだろ!!)


「くっ……問答無用!!!」

 正論に耐えられなかった紅は、チャラ男に向かい、炎に纏われた拳でぶん殴りに行く。余裕の通報案件である。


 チャラ男は腕を交差させ、紅の攻撃を防いだ。

途端、バスタオルがハラリと落ち、チャラ男のチャラ男があらわになりそうだったが、全身が異形の外骨格に覆われ、なんとか難を逃れた。


「クックックッ…私のカモフラージュをよくぞ見破ったな…。やるな、フラレンジャー。」


(あ、ちゃんと怪人だった)

 通常では怪人が現れてホッとする者は居るわけないのだが、異例の事態が起きていた。

 いよいよソレっぽくなってきたことによって、紅は安堵していた。

 こうして「嫉妬に狂ったヤバい不審者」から「悪党と戦うヒーロー」へ昇格したのだ。


「と、とうとう正体を現したな!」

「私の名は恥邪裸王(ちやらおう)ウェーイ。悪の組織 淫拡集団エイズ(E.I.Z's.=Erotic Immoral Zealots)の構成員だ。」

「…名前!ふざけすぎだろ!!!」

 

 ーー後はノリと勢いに任せ、悪党を撃破するのみ。

「貴様の企みは、今ここで終わる!覚悟しろ!」

「そうはいかん。」


 刹那、ウェーイの腕が触手の様に伸び、紅を捕縛する。同時に、紅の溢れんばかりの力が赤子同然に脆いものとなった。


「くっ、力が入らない!離せっ!!」

「フラレンジャーよ、君に私は倒せない」

「なん、だと…!」


「我々の崇高なる使命は、この世界を欲望のまま生き、欲望によって支配された世界を作ることが目的なのだ」

「だからなんだってんだ!彼女は関係ないだろ!」

「関係あるさ、人間は全て醜い欲望で満ち溢れている。君も同じなのだよ、フラレンジャー。」


 ウェーイの目から怪しげな波動が放たれ、やがて紅の身体を包みこんだ。


『しっかりしろ、紅!おい…!紅……』



 謎の声も遠のき、ウェーイの声だけが紅を支配する。


「身を委ね、私の声を聞くのだ。君も己の欲望に従うがいい……そこにいる女性と、あんなことやこんなことをしたいと思ったことはないか?」


(俺は、未恋さんと…したい…めっっっちゃしたい…!!)


「そうだ、私の力を借りれば、君は彼女を自由にできる。」


(…!!!!??)

 紅は、ウェーイの言葉に完全に耳を傾けた。


(…な、何が出来るというのだ!?)

 もう興味津々である。


「私の能力は催眠術の様なもの。君の事をべた惚れにさせることも容易い。」


(俺にべた惚れだとッッ!?あの未恋さんが!!ほぁあーー!!!!)


 興奮しきった紅。ヒーローに在るまじき即落ちである。


しかしーー


「夜の営みなんか、君が望めば✕✕✕✕や▲▲▲なんかも…」

(…????え、なに???) 

「いや、だから〇〇〇〇の#%$&#@…」


 ーウェーイの能力は、視界や聴覚を外界から遮断し、自らの声を届きやすくさせること。つまりは、人の精神を操り「易く」することだ。

 完全な支配は出来ず、諭す必要があり「催眠術のようなもの」と言っていたが、まさにそんな感じの能力だ。 

 悪党に在るまじき正直者である。



 「要するに、君と彼女がベッドインする前から、彼女の$&%#@¿¥…」


(…えっ、なに、えっ、話についていけない…!何を言っているのだ、こいつは!?)


 紅は、言わずもがな女性経験がない。

 かと言って、今の時代に完全無知は不可能に等しいだろう。ある程度の知識はある。そう、非現実から得た中途半端な知識である。


 が、ウェーイの目論見は、より現実味のある表現により、感触や五感の作用に基づいた想像力を掻き立て、より深く引き込みたかったのだ。

 ウェーイからすれば、紅の女性経験無しという点は大誤算だった。


「つまりはだな!脱がすときの%$@#&✕✕…」

 さらに現実的なデティールを延々と語るウェーイ。


(…いい加減にしろ、さっきからわけのわからんことをッッ…!!!!)

 こうなってしまえば双方哀れである。


(さっきから黙って聞いてりゃ、わけのわからんことばっか言いやがって!!)


 紅は稚拙なエロ漫画やAVでしか知識がないため、現実的な絡みは全く想像がつかない。

 しかしウェーイは、妙に現実的すぎる事の運びまでの過程であったり、「本番」までの過程を解説していた。彼は事に及ぶ際も、丁寧さを重視する紳士であった。



(エロい雰囲気だけ伝わって中身がさっぱりわからねえっ!こんなのフラストレーションが溜まるだけじゃねーかッッッ!!!)


 ー全身が熱い。


 燃え盛るエネルギーが覚醒し、術が解けた。




『今だフラレッド!渾身の一撃を放てッ!』


「ま、待てフラレンジャー!話せばわかる!」


「うぉぉおおお!!」

 拳に灼熱の炎が纏う。


「あくまで私に歯向かうのか…こうなれば…!」

 触手の様な手が複数本伸びる。


 だが紅は意に介さない。ダッキングで弾き、一気に距離を詰めながら、拳に力を込める。


「まってくれ、私は君に有益となr「しまった必殺技名考えてねぇおるぁぁあああ!!!」」


 ドガシャァァン!!!!


 殴り飛ばされたウェーイが宙を舞い、断末魔を叫びながら爆発四散した。


 ーーちゅどーん!!


 ベタな爆発音と派手なエフェクトに包まれ、ウェーイは塵となった。




 紅は未恋を見つめる。ベッドでぐっすり眠っている。


(こ、これは…このまま…チャンス…)


 「い、いかん!!」


 その邪な考えは、先のウェーイの影響ということにしておこう。

 紅は、自らの頬を叩き、小さい身体を抱き上げた。


(はっ、はぁぁあクンカクンカ!いい匂い、柔らかい、あっ、可愛い…!…好きぃ。)



 ーーこうして無事、初陣を乗り切ったフラレッド。

 若気の至りによる生理反応でパキっていることはさておき、彼女を守り抜いた達成感に包まれる。


 ホテルで襲わなかったのは「やり方がわからなくてビビったから」ではない…、そう信じることにしよう。




次回予告ーー

 フラレッドに続く悲しきヒーロー、フラレブラック登場!

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