第18話もう一人の転生者
「だって口止めされてるんだもの。バレたらぼくがメル様に嫌われちゃうから本当に言えないの。残念でしたー」
「だから別にいいってば」
トマスはパスカルの悔しがる姿を見たかったのか、当てが外れたようでムッとしている。
「ただぁ、メル様はすごく高貴な御方なんだよね。ゲーム内では攻略キャラでもないのに人気だったし……あ」
「は……?ゲーム?攻略キャラ?」
なんか今メタい発言が聞こえた気がするがこの人、もしかして……
「や、今のはなんでもなーい。独り言ぉ。聞かなかった事にしてよ」
焦ったトマスが顔を横に振るが、自分からボロを出す所が馬鹿だなと思った。
「聞かなかった事にしてと言われても聞いちゃったんだけど。この世界が元乙女ゲームの世界だって事はわかってるし……」
「ちょっと!あんた転生者なの!?」
くわっとすごい形相でこちらに寄ってくるトマスにビビる。
「そ、そうだけど……。隠しててもしょうがないし」
「ふふん。なら話は早い。あんた……メル様の友達なのは結構だけど、これ以上踏み込まないでくれる?」
「はあ……?」
「あんたがメル様の事をどう思っているか知らないけど、メル様に変な気は起こさないでよね。それは大きな間違いなんだから」
「間違いってどういう事」
「あんたはオメガなんでしょ。時々アルファ……ううん、メル様に対してドキドキしたりときめいたりしない?」
「まあ……ないとはいえない。特にメルは頼りになる友達だから……」
こんないい友達を誇らしいと思う。自分には勿体無い。
「でしょう。メル様は基本的に寡黙でクールな印象だけど、本当は誰にでも優しいし、前世での僕の推しキャラだから超素敵なのはわかる。だけどね、その優しさに惹かれたり、友達として特別に想ってしまう感情はオメガやレアオメガの生存本能に過ぎないから」
「生存本能……?」
「オメガやレアオメガが自然とアルファを欲してしまう生理現象の事」
このメルへの不思議な気持ちは、レアオメガにありがちな本能だというのだろうか。確かにヒートになった直後はメルに情けない姿を見せて、離れたくないとか、寂しいとか、異常なほどメルに縋っていた気がする。
それにメル相手に抱かれてもいいとも思ってしまっていた。
じゃあこれら全部、レアオメガとしての本能的欲求なのだろうか。
「オメガはね、基本的にアルファ相手なら誰だっていいの。特にヒート期間中なんて飢えそうなほどの寂しさに襲われる。寂しがり屋で気持ちよさを欲しがる性別だから、好きとか嫌いとかより先に肌恋しさと依存心を満たそうとするのさ」
なるほど。確かにそうだった、かも……。
「よく勘違いされるんだよね。ただの本能に突き動かされてるだけなのに。僕もオメガだからよくわかるの」
ヒート期間中にメルの事ばかりを考えてしまっていた時も、異常な寂しさにそばにいてほしいと縋ってしまう気持ちも全部、レアオメガとしてのごく当たり前の事だという。
ああ、そうか。
「メルはね、僕が前世で超お気に入りキャラで、マジで大好きな二次元キャラなの。ある理由でホームレスとして身を偽ってて、攻略キャラ差し置いて一番人気だったの」
「攻略キャラじゃないのに一番人気なのか」
そんな自分もメルは本当にいい人だと思ったので人気があるのも頷けた。
オーガなんてなんで攻略キャラなんだと思うほど実際はクズキャラだった。そのヒロインは男たらしな天然阿婆擦れ。全くもって謎が多いゲームである。
「攻略キャラではないんだけど、あまりに人気が出たからグッズとかは出てたんだ。攻略キャラじゃないからこそヒロインとくっつかなくて済むからプレイヤーも喜んでたくらいよ。嫌われヒロインだからね」
「……だろうな」
前世の妹が『推しが攻略キャラじゃなくてよかったぁ』って呟いていたが、そういう意味だったのか。じゃなかったら、当の昔にヒロインにもれなく落とされていただろう。
メルがあんなヒロインに攻略されない立場でよかった。
「そんなメル様がいるこの世界に転生できて、しかもそばで見守れるこの幸せ。ああ、素晴らしい!ってことで協力して」
「はい……?」
「メルと僕がくっつくのをさ」
「はあ?」
「僕ね、オメガなんだ。オメガだから男同士でも子供出来るし、メル様の子供を生む事ができる。それって最高だし、前世からの推しの子供を孕めるなんてこれ以上の幸せはないじゃん。で、あんたに協力してほしい」
「………」
どうしてか、それは簡単にハイとは言えなかった。
「やだね」
「ちょっと!協力できないって言うの?」
「俺はあんたほどメルの事を知らない。妹のプレイ動画をたまに見ていただけだし、前世ではメルの事を知らずに死んじまったから」
「だから何も知らなさそうだったんだ。ゲームでは人畜無害のヒロインNTRパン屋の少年だったもんね」
「NTR言うな。つかトマスってキャラも知らないや。隠しキャラ?」
「いや、ぼくはただのモブ。だけど、モブでいる方が何かと都合がいいからやりやすい。この今の立場は愛するメル様と一緒にいられるし~」
「あーそう。そらようござんした。まあとにかく、俺は協力しないから。メル自身があんたを好きだと言うなら別だが、そうじゃないなら何もしない。勝手にしてくれ」
「けっ……つまんない。いいもーんだ。あんたなんかに協力を仰ごうとした僕が悪かったよ。あ、言っておくけど、変な気は起こさないでよ」
「変な気?」
「メルは僕のものだから。もし変な気を起こしたなら権力使ってでも引き離してやるから」
「心配しなくても取らないよ。俺とメルは友達なんだから」
メルへの気持ちはごく当たり前のレアオメガとしての本能なのだとしたら、何も言う事はない。ちょっと無理があるけど、これからはちゃんとメルとは普通の友達としてやっていけると思う。
間違っても、友達相手に変な気なんてもう起こさない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます