第3話人生真っ暗
「今まで本当にごめんねっ。私、彼と結婚しようと思っているの。真実の愛に目覚めたから。だから、パスカル君との婚約は解消させてもらうからっ」
「……そう」
真実の愛とやらにパスカルは敗れたようだ。
ショックではあるが、それが真実の愛とやらなら自分は身を引くしかあるまい。むしろ、幼馴染の彼女がこんな頭の悪い女だと知れて逆によかったのかもしれない。
「婚約破棄はともかく……お前との友情もこれで終わりだな」
「そういう事だ。まあ今後の結婚のためだ。お前というオメガの友人がいたんじゃ同類だと思われかねない。お前には悪いと思うがわかってくれ」
「……言われなくてもこっちから願い下げだ。浮気して俺を裏切ってたお前らなんか」
「パスカル君っ。そんなこと言わないでぇっ!これからはパスカル君は私達の友人として仲良くしてほしいのっ。結婚式の招待状も出すからっ。ね?私達、小さい頃から仲良しだったんだから、これからも仲良くしてね」
「っ~~っバカ!よくもそんな事を言えるなお前っ!浮気していたくせに!今更友達ズラできるわけないだろうが無神経!」
俺はさすがに頭にきてリリアを怒鳴りつけた。
裏切った相手の結婚式に友達面して参加しろとかどんな拷問だろうと思う。恥ずかしい上に惨めな姿の上塗りにしか思えない。
「きゃっ!なんで怒るの?こわいよっ。オーガ君助けてっ!」
そうしてブルブル震えて涙目でオーガに縋りつくリリア。彼女に対する愛情も枯渇どころか氷点下に下がった。
「おい、てめえ!俺のリリアを怖がらせんじゃねえ!」
気が付いたら頬を思いっきりグーパンで殴られて吹っ飛んでいた。固い地面の感触が痛くて冷たい。
「ふんっ!お前のようなリリアに対してひどい奴は二度と俺達に関わるんじゃねえ!そんなんだからフラれるんだよダサ男のオメガが」
オーガは惨めに這いつくばるパスカルを鼻で笑い、リリアの肩を抱き寄せながらその場を去って行った。リリアはそんなパスカルをチラチラ振り返って哀れむように見ていたが、やがてはオーガの背中に腕を回してしなだれかかっていた。
……最低最悪っ。
恋人と友人てなんなんだろう。その二人に浮気をされて、小さい頃から培ってきた友情と愛情は露と消えた。
頼りになる友人だったのに。大好きな彼女だったのに。
いやむしろ、自分だけが友達や恋人だと思い込んでいて、元から友情や恋情などありはしなかったのかもしれない。あの二人の淡白な態度を見てそう思った。
「ははは……俺って、なんのためにこの世界で生きてるんだろ……」
こんな呆気ない幕切れにはさすがに笑いだけでなく涙もこみ上げてくる。自分の人生は終了フラグが立っていた。
不幸はまだ続いた。
両親が営むパン屋はそれなりに繁盛していて、常連客でいつもごった返していた。
この先、パスカルもパン屋の店を継いで、店主となって、嫁をもらって子供ができて、家族全員で幸せに店を切り盛りしていくものかと思われた。が、それももう昨日までの幻想に打って変わり、オメガがいるという噂をどこで聞きつけたのか、店にほとんど客が寄り付かなくなっていた。
これからの収入の心配を考えて、本日は自分も日雇いの仕事を探しに出た。こんなレアオメガを雇ってくれる職場があるとは思えないが、日雇いの仕事なら猫の手も借りたいはずだと
とぼとぼ肩を落として歩いていると、貴族の婦女子達が高級カフェテリアのオープンテラスで優雅におしゃべりに興じている。別にその会話に聴き耳を立てる気はなかったが、ある名前を聞いてふと顔をあげた。
「レナード様は本当に素敵ですわぁ。まだ齢18だというのに王太子としてしっかりされて。何よりあの美しい造形美……惚れ惚れしちゃいます」
「えーわたくしは王国騎士団の団長ディアス様がいいですわぁ。あの素晴らしい筋肉に硬派な所。そしてお強い所。レナード様と対を成すほどの剣の実力なんでしょう?妻になったら守ってくれそうだわ」
「えーわたくしは次期宰相候補のレイモンド様かなぁ。あの知的な眼鏡がドSな感じで迫られたいですわ」
レナード……ディアス……レイモンド……。
はて、どこかで聞いたことが、あ――――
よく考えたらこの世界は、前世で妹がプレイしていた乙女ゲームの世界じゃないかっ!
【運命の番はすぐそこに!】という乙女ゲームでは珍しい男女のオメガバース設定だったと思い出した。
聞いたことがある王族や貴族の名前、現実に見ているゲームスチルの景色。今更ながら気づいた。たしかに妹がやっていた記憶がある。
乙女ゲームに興味がない自分がここまでキャラなどを覚えているのは、妹が堂々と居間の大画面で毎日プレイするものだから嫌でも覚えてしまった。
ヒロインは美少女でピンク色の髪のツインテール。つまり、つい最近までパスカルの元恋人だったリリアの事だ。
あれがヒロインって……俺、見る目なさすぎるだろ……。
彼女の第二の性別はゲーム当初はベータだったが、各攻略キャラと出会って愛を育みあい、都合のいい
オメガバース設定の割にはなぜか全年齢向けで、その手のエロいシーンとやらは18歳以上の
最初はただのオメガバースの世界だと思っていたが、まさか
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