幸薄レアオメガは謎のホームレスと幸せになりたい
いとこんどりあ
第1話オメガバースの世界
どうやら俺は死んだみたいだ。
生前は目立たず平凡地味な生活を送っていた。両親は評判の弁当屋をやってて、妹は普通の女子大生。友達も数人いた。
それがどうしてこうなったのか。
健康診断に来ただけのはずが、看護師の手違いで使用済みの注射針を打ち込まれ、某有名な性病を発症。不治の病に侵され、そのまま治る見込みなく死んだなんて。
呆気なさすぎて笑えた。
別にこれからやりたい事もなかったし、心残りがあったわけでもない。ブラック企業勤めの自分は遅かれ早かれこうなっていたのではないかと思う。
もう連続何連勤かなんて思い出せないし、どうあがいても寿命が延びる事はなく縮む一方だったから死ぬのが早かっただけ。
次に生まれ変わるなら前の人生よりいい人生が送れたらいいなあって思っていた矢先、コレだなんて。
第二の性別検査の結果が【レアオメガ】だなんて、早くから人生が終わった気がした。
*
この世界は前世の地球とは違い、もう一つの性別が存在する。
男と女以外の第二性別だ。前世の妹がBLや乙女ゲームが好きで、嗜んでいたオメガバースとやらの設定に似ているなと思ったが、そのまさかだった。
前世の俺は二次元美少女が大好きで、BLだとか乙女ゲームのイケメン滅びろとか妬んでバカにしていた自分だった。が、まさかのそのオメガバースの世界の住人になってしまうなんて、ひどい皮肉がきいた転生先だと思う。
オメガバースとは、アルファ、ベータ、オメガ、レアオメガの四つの区分の性別に分けられ、その中でアルファの男女、ベータの男女、オメガの男女、レアオメガの男女とさらに分けられる。
アルファはこの世界でも貴重な存在。身体能力や知能が秀でているエリートの性別だ。
この世界での王族や貴族の跡取りは、必ずこの性別にならないとトップに立てないとまで言われており、もし平民でアルファに生まれたなら人生勝ち組と言っても過言ではないだろう。
ベータはこの世界の人口の大多数を占めている一般的な性別だ。The・平凡とも言う。
最初は自分もどうせベータだと高をくくっていた。前世でもこの世界でも平凡地味に生きてきたのだ。
だからベータだと本気で思っていたのに……。
そして、オメガはアルファ以上に人口が少ない。
男女ともに妊娠可能な性別である。レアオメガともなれば絶滅危惧種だ。
男でも妊娠可能だなんて前世の腐女子の妄想にウンザリしていたが、実際本当に妊娠している男を見かけたし、自分もそれに当てはまってしまっているのでぐうの音も出ない。
歴史が差別と虐殺を物語っている性別で、オメガには発情期という厄介なものが存在している。それは時々漂わせてしまう強いフェロモンにより、エリートであるアルファを否応なしに誘って興奮させてしまうからだ。
定期的にヒートというものを起こし、フェロモンを撒き散らすのが一週間ほど続くものだから、望まない妊娠や番となってしまった者達を含めて、世間からは強い風当たりに晒されている。
今も街角でオメガの権利擁護派とオメガ排斥派が広場で激しく言い争っているが、王都も民衆も「いつもの事か」とだんまりを決め込んでいる。
娼婦や淫売などと街角で罵られているのを見ると、レアオメガである自分としては遣る瀬無ない。
オメガの
レアオメガとなると薬はさらに効きづらいし、フェロモンも普通のオメガ以上に垂れ流してしまうので苦労は一入。
普通のオメガ以上に希少価値が高いが、差別と偏見がひどい。特に男のレアオメガなんて世界に数十人しかいないと聞いた。
もう一つの発情期対策は番を見つける事。
首のうなじを噛んでもらえれば番成立なのだが、そんな簡単な事で済めばどれだけ楽だろうか。
人生に一人としか番は結べず、一度結んでしまうと二度と解消なんてできないし、浮気や不倫、死に別れなんてされたら悲惨だ。肉体的にも精神的にも肌寂しくなり、病んで自殺も多いとされる。
貴族が跡取りを生むために妾として娶る事が多く、おまけにレアオメガは平均寿命が普通のオメガより極端に短い。20代になる頃には番がいなければ死亡率がぐんと上昇し、性的搾取されるしか生きられない最も可哀想な性別だ。
そんな不遇なオメガとレアオメガだが、【運命の番】と出会えたなら話は別らしい。
特にレアオメガにとっては唯一無二の伴侶として欲しい存在と言われている。
なぜなら、運命の番と出会うと必ず幸せになれると言われているからだ。
何を持って幸せになれるのかよくわからないが、そんな存在とすんなり巡り合う事ができれば世のオメガ達は苦労しない。
天文学的数値の確立に引きあうなど、宝くじで一等が当たる強運と奇跡の持ち主でない限りありえない話。そんな夢物語を信じるほど余裕ある生活なんてオメガ達は送れないのだから。
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