第7話
火曜日が来た。窓の外は快晴だ。
朝早くから、珍しく親方が電気シェーバーをあごにあてている。その身なりといえば、身ぎれいなスーツにネクタイまでしめていた。きれいに剃り上げた頬をぴしゃっと叩き、軽トラックではなく自家用車の鍵を手に取った。
玄関口で歯ブラシをくわえたまま、チカイチはその様を見やっていた。
「じゃあ行ってくる」
「はいよ、いってらっしゃーい」
歯ブラシをくわえたまま、ひらひらと手を振る。
グレーのセダンに向かってゆく親方を、玄関から眺める。すぐに運転席には乗り込まず、後部座席のドアをあけて、乱雑に散らかったものをきれいに片付けているのが見える。つまり、妻以外にもうひとり、たぶん娘が乗り込むのだ。親子三人でドライブか、それとも食事にでも行くのだろうか。
片付けに納得したのか、やっと親方が運転席に乗り込んだ。車のエンジン音がして、乗用車はすぐに遠ざかっていった。
チカイチは、親方の元妻には会ったことがない。部屋に飾ってある写真を見たことがあるだけだ。話そのものを親方が避けるから、元妻の名前も今の状況もあまり理解できていない。昔何かの理由で離婚したこと、妻の方は再婚して娘が生まれたけれど、その後離婚したこと、そして今はまた親方と会っていること。チカイチが知っているのはそれくらいだ。
詳しく知りたいと思ったことはあるが、どうにも聞きづらい雰囲気だからいまだ詳細は知れずにいる。
そんなことより、今日は大事な用事があるのだ。
普段のトレーナーにジーンズ姿で、仕事用のジャンパーを手にチカイチは家を出た。いつもと違い運転席側に乗り込んで、軽トラックのエンジンをかける。かりんの家の辺りを、一度だけ通るつもりだった。もし出て来たら連れていくし、出てこなかったら縁がなかったと思うしかない。
この間飛び出して来たあたりで、チカイチは放送のスイッチを入れる。
『毎度おなじみ、ピンクの小鳥が目印の、はねだ廃夢回収車です』
三件先の門が開いた。
小さな姿が、こちらをじっと睨んでいる。
軽トラックを停め、チカイチは窓を開いた。
「じっと隠れていられるんなら、ほんのちょっとだけ夢の島に連れてってあげる」
「ほんと?」
「うん、でも見つかると怒られるから、大人しくしてられる?」
拳を握り込んで、かりんが頷き返した。
助手席のドアをあけ、かりんを乗せる。夢の島へトラックを走らせながら、チカイチはかりんに話しかけた。
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