十夢十色
明日葉
第一夜 『自由の海へ』
こんな夢を見た。
私は息を切らしながら、やみくもに走っていた。
何かに追われるように、いや、実際に追われているのかもしれない。
でも、誰…いや何に?私は何に追われているのだろう…
そんなことを思いながら、ただ走り続ける。
ここはどこだろう?お城?石が積まれた廊下を駆け抜ける。
影におびえ、光を避け、見つからないように…
とにかく逃げなければ。
止まっては駄目な気がした。
目指すのは出口。
…出口?ここから出るにはどこを目指せばいいのだろう。
カーテンの林をくぐりぬける。
ソファの丘を越え、チェアの螺旋階段を駆け上る。
大広間に広がるベッドの平原を飛び跳ねる。
少し楽しい。
あれは?
先に見えるあの光は希望だろうか?
不器用な人間が乱雑に作ったような木製のドアの隙間から、無数の光が差し込んでいる。あれだ、あそこまで逃げれば…
追っ手がすぐそこまで迫っているのを感じる。
私は振り向く事などせず、躊躇なくそのドアを開けた。
あまりの眩しさに目を覆い、足をとめた。
それがよかった。
そこから先に床はなく、眼下には海が広がる。
どうやら少し張り出た石の壁の上に立っているようだった。
このまま走り抜けていたら、何が起きたかもわからないまま、真っ逆さまに落ちていただろう。
沈み始めた太陽の光が、波をオレンジ色に煌めかせている。
この建物は、どうやら海の真ん中に建っているようで、見渡すかぎり何もない。
行き止まり…
追っ手はもうすぐ後ろだと気配でわかる。
もう少ししたら、あの扉を開けて私を見つけるだろう。
扉を見つめていれば、私が何に追われていたのかがわかるはずだ。
でもきっとその時は、もう手遅れ。
引き返すことはできない。
どうしたら?どうしよう?
焦りから嫌な汗が頬を伝う。
いや、諦めるのはまだ早い。
一つだけ、進路がある。
私は自分に言い聞かせた。
ここに居てはいけない。逃げなければいけない。
そうだ、私は飛び立つのだ。
大きく息を吸い、そのオレンジ色の光の中に、その身を投げた。
ふっと体の力が抜ける。
重力に逆らうことなく、まっすぐに落ちていく。
落ちていく…
激しい水しぶきをあげ、私の体は海の底へと沈んでいった。
重力から開放され、静かに、ゆらゆらと、沈んでいく。
ああ、いい気分。
今、私は海と夕日とに包まれている。
もう逃げる必要はないんだ。
私は自由だ。
自由なのだ。
気がつくと、私の体は硬い甲羅で覆われ、両手両足はオールのようになっていた。
驚きはなかった。
ただただ、開放感と喜びにあふれていた。
とうとう、全てから解放されたんだ!
逃げ切れたんだ!
私は静かに泳ぎ始めた。
ふと、水面へ顔を出す。
振り返ると、高く聳え立つ孤島の要塞が見えた。
もう、ここへは戻らない。
新しい人生が始まるんだ。
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