第19話【聖女様、謎の“影”に狙われてます!?】
森の奥深く、濃霧が立ちこめる静寂の中。
人の気配などないはずのその場所に、漆黒の空間がぽっかりと口を開けていた。
そこから現れたのは、赤い瞳を持つ男――ヴィルゼルだった。
「……ふむ。やはり、“光”は成長しているな」
彼は指先で、まだ残る浄化の余韻をなぞるように空を払う。
それだけで、周囲の瘴気がびくりと怯えたように霧散する。
すると、彼の背後の空間がすうっと揺らぎ――一人の男が現れた。
背筋を伸ばし、黒に銀の刺繍が施された衣を纏う、理知的な雰囲気を漂わせる青年。
その瞳は深い紫で、どこまでも冷静。そしてその口元は、わずかに険しい。
「――お戻りでしたか、ヴィルゼル様」
「やあ、セレヴィス。少し様子を見てきただけだよ。君には退屈な任務を押しつけたね」
「いえ。貴方の動向に比べれば、瘴気の掃討など児戯のようなものです。……それより、“彼女”とは接触を?」
「うん。倒れてしまったけど、無事だった。彼女の“光”は、もう聖具すら必要としない域に達しつつある」
「――やはり、接触は危険では?」
「かもしれない。けれど、彼女は今……私を“恐れなかった”。それが、どんなに稀有なことか……君なら分かるだろう?」
セレヴィスは黙って、わずかに視線を伏せた。
「……その件については、また後日報告を」
「うん。君の分析はいつも正確だ。期待しているよ」
「身に余る光栄です、ヴィルゼル様」
二人のやり取りは、まるで何年も積み重ねてきた呼吸のように自然だった。
だが、セレヴィスの眉間にはわずかに影が落ちていた。
(……“彼女”に心を向けすぎている。あの方にしては、珍しく)
そんな言葉を飲み込み、セレヴィスはただ静かに頭を垂れた。
「では、そろそろ拠点に戻られますか?」
「いや……もう少しだけ、この余韻に浸らせてくれ。彼女の“光”は、実に心地いい」
「……了解しました」
その声色は丁寧で変わらないはずなのに、どこか拗ねたようにも聞こえた。
そうとは知らず、ヴィルゼルは薄く微笑む。
「……さて、次に会う時は、もう少しだけ近づけるかな。ふふ、楽しみだよ、カナコ」
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