アルカナ・コーデックス
@yokoshin7979
第1話 「壊すもの」
華嶺帝国の国立遺物博物館。
夜の静けさが、まるで時間そのものを止めてしまったような空間。
リュウは、警備員としてその静寂を見守っていた。
「はぁ……今日も何も起きへんやろな」
制服のポケットに手ぇ突っ込んで、リュウは展示室を巡回していた。
19歳。母と妹との三人暮らし。父は遺物発掘の現場で亡くなった。
貧しいけど、家はあったかい。妹の笑顔が、何よりの癒しや。
たまに、変な感覚がある。
誰かの声が聞こえたり、見たことない景色に懐かしさを感じたり。
でもリュウは「気のせいやろ」で済ませてた。深く考えるのは苦手や。
その夜も、いつも通りの巡回。
展示室の奥、封印された遺物が眠る区画に差しかかったとき、
人影が目に入った。
「……ん? 誰やあれ」
小柄な少女。
フード付きのジャケットに、肩掛けのバッグ。
展示ケースの前で、何かの装置をいじってる。
「おい、そこの! 何してんねん!」
少女はびくっとして振り返った。
「えっ、やば……見つかった……」
「そら見つかるやろ。ここ、立ち入り禁止やぞ」
「ちょっとだけ! ほんまにちょっとだけ! 見るだけやから!」
「その手ぇに持ってるん、コーデックの解除装置やろ。見るだけちゃうやん」
少女は苦笑いして、肩をすくめた。
「……転売目的って言ったら、怒る?」
「怒るっちゅうか、通報やな」
「じゃあ逃げるね!」
そう言って、少女は奥へと走り出した。
リュウも慌てて追いかける。
「待てや! こら!」
展示室の奥に踏み込んだ瞬間、空気が変わった。
壁が揺れ、遺物が微かに光を放つ。
リュウの耳に、あの“声”が囁いた。
「壊せ、壊せ、壊せ」
「……またか。なんやねん、これ」
少女も立ち止まっていた。
「……あんたも聞こえるん?」
「は? お前もかいな」
「うん……なんか、ずっと聞こえてる。壊せって。意味わからんけど」
「……お前、何者やねん」
少女は首をかしげた。
「ただの転売屋。ほんまに。ただ、たまに変な夢見たり、声聞こえたりして……でも、誰にも言われへんかったから」
リュウは少女を見つめた。
その目は、何かを知ってるようで、何も知らんようでもあった。
そして、遺物が震え始めた。
「……おい、動いてるぞ。これ、ヤバいやつちゃうか」
「え、うそ……あたし、触ってへんで?」
「いや、たぶん……俺らが“聞こえてる”からや」
展示室の空気が、まるで音楽のように脈打ち始める。
遺物が、呼吸するように光を放つ。
そして、少女がぽつりとつぶやいた。
「……もしかして、あたしら、壊す側なん?」
リュウは、答えられへんかった。
ただ、胸の奥で何かが目覚めようとしていた。
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