霊媒師である俺がお姉さんに可愛がられた話

哺乳瓶さん

1章 霊媒師、曽我霊斗と自由奔放、白銀菫

第1話 寒村 上

蝉の鳴き声が、山道に木霊する。木漏れ日を手で遮り、俺は汗で下がった眼鏡を持ち上げた。

その軽自動車は蝉の合唱に対抗する様にエンジン音を鳴らす。タイヤは小石を踏みつけ、車内はその影響で小刻みに揺れていた。

車内には煙草の匂いが充満しており、俺は思わず顔を顰める。

エアコンは無く、環境も最悪。少し、この選択に後悔している。

「で、ワシァそいつにこう、ガツ〜ン!と鼻に一発な……」

後部座席に座っている俺に対し、運転手である曽我浩二が自らの武勇伝を語る。

俺は適当に相槌を打ちつつ、外の景色を眺めていた。景色はさっきから全くと言っていいほど変わっていないが。

「はぁ」

親父から話は聞いていた。どうやら昨年、奥さんが病気で亡くなったらしい。しかも、息子達が上京して寂しいんだと。だからって、甥に一時間ひたすら自分の武勇伝を語ることは無いだろ。と、俺は心中で毒づく。

「ん? 何した?」

叔父は自分語りを止め、ルームミラーを覗き込む。

パンチパーマにアロハシャツ。今年で54ということで、顔には深く皺が刻まれていて、頬がわずかにたるんでいる。目つきも悪く、俺もかつてはビビって親父の背中に隠れていた。ただ、別にそこまでヤバい人では無い。典型的な、昔ヤンチャしてた系だ。この様に、少し鬱陶しいところはあるが、それ以外は至って平凡。

「いえ、別に」

「ん? そうか」

そう言うと、叔父は再び武勇伝を語り始めた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


その寒村は、まるで世界から隔絶された様な雰囲気の漂う、不気味であり、また美しくもある場所だった。

杉木立に囲まれ、茅葺き屋根の家が点在している。畑には陽光を浴びる作物の姿が見えた。

外界とは雰囲気がまるで違う。

だが、不思議と不快感は全くと言っていいほど無かった。むしろ、空気は良く、何だか落ち着く。

ここには幼少の頃に一度行ったきりだったが、こうして突っ立っていると、故郷に帰って来た様な、そんな郷愁を感じるのだ。


叔父は村の入口に車を止め、家に向かう。俺はトランクを引き、叔父の背中に着いていった。




「ここや」

叔父の家へと入り、その奥の部屋へと案内された。叔父がその部屋の襖を開ける。そこには、四畳間の部屋が広がっていた。左手に箪笥と物置があるだけで、他には何も無い。

畳は少し汚れていて、木材でできた壁には子供の落書きがあり、部屋全体に漂う木材の香りが微かに鼻孔をくすぐる。

今日からここで一ヶ月ほど住むのか、はぁ。というのが正直な感想だ。

俺は荷物を整理し、リビングへ向かった。






リビングと思われる六畳間の部屋には、小型の液晶テレビと、テーブルが置かれていた。部屋は相変わらず煙草臭く、特に飾り気も無い。


俺はテーブルの前に置かれた座布団に正座をする。自然な流れで、俺は目の前で胡座をかいている叔父に頭を下げた。

「これから、よろしくお願いします」

「んな堅くなんなって。気楽に行こうや、な?」

叔父がカンラカンラと笑う。その軽い態度が癪に障るが、ここは流すのが賢明だ。

テレビには丁度昼時ということで、グルメ番組が流れている。

「そんじゃ、ちょっくら待ってろ」

叔父はよっこらせっ、と立ち上がり、台所へ向かった。

そんな叔父の背中を見ていると、彼もまた霊媒師の血筋であることを忘れてしまいそうになる。


曽我家は代々、霊媒師の家系だ。その血筋の者は異能の力、霊術を扱える。故に社会からは隔絶された存在なのである。

霊媒師というのは名の通り霊との媒介の役割を成す者を指す言葉であり、そのほとんどが世襲だ。だから親父は現在曽我家の当主であり、次男である叔父は霊とは関わらずに生きてきた。

そして、俺は親父、曽我霊蔵の一人息子であり、次期当主なのだ。




「ほらよ」

そう言って叔父はハヤシライスを俺の目の前に置く。それは湯気立ち、香しい香りを放っていた。

先ほど電子レンジを使っていたため、恐らくレトルト。 皿は少し汚く、ルーが皿の縁からはみ出ている。

「いただきます」

俺は鉄製のスプーンを手に取り、ハヤシライスを口に運ぶ。

味は可もなく不可もない。ただ、レトルト食品というのは新鮮だ。

「それで、お前最近、大丈夫か?」

スプーンと皿の擦れた時に鳴る金属音とテレビの音が交差する中で、叔父は俺に問いかけてくる。

成績のことだろうか?

「はい、良いとは言えませんが。期末では86点でした」

「そうか、それは何よりや。だがな、若い内にもっと遊どいた方がええぞ?歳を取るとな…」

そんな調子で説教を始める叔父を前に、俺は耳を傾けつつ、食事を終えた。


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「こんなところやな」

14時過ぎ、俺は目の前に積まれた漫画雑誌の山を見つめていた。

そこには俺の従兄弟が買ったであろう少年誌が埃を被り、無造作に置かれている。何故かその中にはR18本やAなvideoもあるが、それは何故だろうか?……叔父の性格の悪さを再認識した。


──正直に言って、興味は無い。だが、折角俺のために持ってきてもらったのだ、頼んではいないが、仕方無い、目を通しておこう。

適当に一番上の物を取ってみる。

「……」

案の定、全くもって知らない作品ばかりだ。紙は黄土色に変色していて、言葉を選ばずに言うとかなり汚い。

「どうや、オモロいか?」

叔父は急造し焦って貼り付けた様な笑みを浮かべている。俺はその言葉に「面白い」と当たり障りの無い回答をして、雑誌を流し見ていく。

「こりゃ確か、北斗の剣、龍の玉、キャプテンタイガー、次女の微妙な冒険辺りの年代で、え〜っとこれは、少年フライデーやな。あ、後こりゃ企画モノのやつで、これが〜、あ〜……あれや、NTRモノで……」

だから、何故そっち系のやつをわざわざ見せるんだ?本当、彼等が気の毒でならない。

「ホンマ、しょーもない。こんなん見とる暇あったら、ガールフレンドの一つや二つ作っとけや」

甥の前でそんな愚痴を吐くなよ。てか、エロコンテンツ見てるやつがしょーもないって、全方面に怒られるぞ、マジで。先ほどから叔父への好感度が降下の一途を辿っている。

「で、どうや、ええんはあったか?」

突如、叔父が俺の方に目を向けてきた。

「はい、ここら辺を持っていきます」

そう言って俺は、少年シャンプーの丁度黄金期と呼ばれていた頃の物を手に取る。

内容聞かれた時のことを考えて、一応読み進めておこう。


少し、いやかなり鬱陶しい叔父ではあるが、悪い人では無い、はずだ。そう信じたい。マジで頼む、信じさせてくれ。

とにかく、これから一ヶ月はここで過ごすのだ。今みたく、何とか上手くやって行こう。大丈夫だ、俺ならやれる。

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