第1巻 第2章 「雪山の鬼」

振り返った瞬間、デイビッドは呆然とした。

彼の顔には恐怖が浮かんでいた――これから戦おうとしている相手が…


雪山の鬼 だと気づいたからだ。


姿を現した鬼は、およそ三メートルの巨体を誇っていた。全身は白い毛に覆われ、所々に巨大な傷跡が刻まれている。体に不釣り合いなほど長い腕、そして四十センチにも及ぶ鋭い爪。


さらに背には巨大な翼が生えていた。しかし――鬼には目がなかった。


そのことを理解した瞬間、デイビッドの背筋を冷たい恐怖が走った。


> 「こいつは…雪山の鬼。おそらく中位級の鬼…」




盲目でありながら他の子供たちのように学ぶことはなかったデイビッドだったが、彼は頭の回転が速く、学校の教師たちが語る悪鬼の階級について盗み聞きしていた。


それによれば、鬼は下級、準中級、中級、準上級、そして上級に分かれる。また、自らより弱き存在を支配する「魔族」も存在する。


そして、今目の前にいるのは確かに中級の鬼であった。


突如、デイビッドの頭を鋭い痛みが襲う。頭を押さえて目を閉じ、再び開いたとき、彼の視界には一人の人物が歩いている姿が映った。右手には馬とそれに乗る人々、左手にも同じ光景。自分の手を見下ろすと、そこには鎖が巻きついていた。


> 「俺は…鎖につながれているのか…?」




立ち止まろうとした瞬間、背後から誰かに殴られた。


鋭い痛みが背中を貫き、膝をついたデイビッドの口からは嗄れた声が漏れる。振り返ると、そこには四十歳ほどの男が立っていた。茶色の兵士用鎧に身を包み、怒声を浴びせてくる。


「子犬め、なぜ立ち止まっている?! 誰が立っていいと許可した!」


「すぐに立て!」


どうにか立ち上がったデイビッドは、心の中で怒りを燃やした。


> 「お前が…最初の犠牲者になるだろう…」




その時、金色の髪を太陽のように輝かせ、青い瞳を海のように澄ませた美しい青年が男の前に歩み出た。


「将軍、奴隷をあまり打たないでください。これでは続けられません。少し休憩を取らせるべきでは?」


男は怒りの表情で彼を睨みつけ、吐き捨てるように言った。


「レイハン、お前は勘違いしているな…ここで将軍なのは俺だ。休憩を決めるのも俺だ。お前ではない、わかったか?」


歯を食いしばったレイハンは、何も言えずに顔を背けた。


「……わかりました。」


その会話を聞いたデイビッドは、心の中で嘲笑する。


> 「ふん…なんて善人ぶったやつだ。だが善良さが常に正義とは限らない。その仮面の下には偽善が潜んでいる…」




奴隷の隊列が山を登る頃には、太陽は沈み、月の光が周囲を照らしていた。疲弊したデイビッドは鞭の傷から血を流し、歩くのも困難だった。


倒れた奴隷は容赦なく鎖を外され、山から突き落とされていく。デイビッドは一瞬、彼らを哀れに思ったが、すぐに自分も同じ運命を辿るかもしれないと気づいた。


二時間後、奴隷の一行はついに足を止めた。


「全員、命令を聞け! 野営の準備をしろ! 薪を集め、奴隷どもに水と食事を与えろ!」


号令とともに人々は動き出し、やがて火が焚かれた。強き奴隷たちは前に、弱き者は後ろに――デイビッドもそこにいた。


その時、レイハンが近づいてきた。


「少年、これを持っていけ。」


パンと水、さらに一枚の布を差し出してくる。


デイビッドは心の中で毒づいた。


> 「ふん、下手な善意だな。他の奴隷が見れば俺を殺しかねない。やはり偽善者め…」




彼は布だけを突き返し、冷たく言った。


「布はいらない、ありがとう。」


レイハンは微笑みを浮かべて頷いた。


「そうか。」


その後、食事を終えたデイビッドは「闇の感覚」の力で危機を察知した。


冷たい風が頬を打つ。空を見上げると、氷の破片が雨のように降り注ぎ、奴隷たちと兵士たちに甚大な被害を与えた。


「警報を鳴らせ! 我々は襲撃を受けている!」


怒号が飛び交い、兵士たちは防御陣を組んだ。


デイビッドの頭上にも巨大な氷塊が落ちたが、彼は能力を使って回避する。混乱した奴隷たちに鎖で引きずられる中、彼は木を利用して無理やり立ち止まり、前の奴隷を転倒させて殺してしまった。


氷の雨が止んだ。


「騎士:これで終わりか?」


その瞬間――天から巨大な影が舞い降りる。


翼を広げ、咆哮をあげる存在。


雪山の鬼 が、そこに現れた。


騎士たちは恐怖に顔をこわばらせ、叫んだ。


「こ、これは…雪山の鬼だと!?」

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