第4話 思うようにいかない金策

翌朝、俺とソラは早速雑魚狩りに出発した。


「よし、ソラちゃん!今日はガッツリ稼ぎましょう!」


『うん!でも、あまり無理しないでね?』


「大丈夫です。計画的にいきます」


俺たちは街の外の森で、手頃な敵を探し始めた。


最初に現れたのは……


「スライム?」


ぷるんぷるんと跳ねる青いゼリー状の生き物。RPGの定番雑魚モンスターだ。


「ソラちゃん、銀貨1枚の白スパでお願いします」


『了解!』


ソラの軽い魔法攻撃で、スライムは簡単に倒れた。そして……


「あれ?お金が落ちない」


スライムからドロップしたのは、謎の粘液だけだった。


「まあ、スライムだから仕方ないか。次行きましょう」


その後も、野兎、小さなゴブリン、森のオオカミ……弱い敵ばかりが現れる。


「ソラちゃん、また白スパで」


『はーい』


しかし、どの敵も落とすのは素材ばかり。お金は全然落ちない。


「おかしいな……昨日の魔王軍兵士たちは金貨を落としたのに」


3時間ほど狩りを続けて、やっと銀貨を3枚手に入れただけだった。


「これじゃあ、白スパ3回分にしかならない……」


『健太くん、疲れてない?』


「大丈夫です!もう少し続けましょう!」


でも、その後も状況は変わらなかった。弱い敵ばかりで、お金はほとんど手に入らない。


昼過ぎ、俺たちは途中の小さな村で休憩することにした。


-----


「すみません、この辺りでモンスター狩りをしてるんですが、あまりお金が手に入らなくて……」


俺が村人に尋ねると、老人が困った顔をした。


「ああ、それはそうでしょう。つい昨日、魔王軍がこの辺り一帯を襲って行ったんです」


「魔王軍が?」


「ええ。強いモンスターは全部倒されるか連れて行かれるかで、今いるのは弱い奴らばかり。おまけに財宝も根こそぎ持って行かれました」


「マジですか……」


つまり、俺たちが最初に戦った魔王軍兵士たちが、この辺りの美味しい獲物を全部掻っ攫って行ったということか。


「次の街まではどのくらいですか?」


「徒歩で3日はかかりますな。その間、まともに稼げる場所はないでしょう」


3日間……今の所持金で、ソラちゃんと俺の宿代と食費を賄えるだろうか?


俺は頭の中で計算した。


金貨10枚、銀貨15枚。最初の村では宿代が1泊2人で金貨2枚、食事代が1日2人で銀貨8枚だったから……


「足りない……」


『健太くん?どうしたの?』


「あ、いえ、何でもないです!」


俺は慌てて笑顔を作った。ソラちゃんに心配をかけるわけにはいかない。


-----


その夜、次の街への途中にある宿場町で。


「すみません、部屋を1つお願いします」


『え?健太くん、1つでいいの?』


宿の主人が料金を告げる。1部屋で金貨1枚と銀貨5枚。2部屋だと金貨2枚と銀貨2枚。


今の所持金を考えると、2部屋は厳しい。


「1部屋で十分です!俺は外で野宿しますから!」


『え!?』


ソラが驚く。


『健太くん、なんで?』


「あー、えーっと……男らしさを鍛えるためです!そう、サバイバル訓練!」


『でも危険よ?』


「大丈夫です!俺、キャンプ得意なんです!」


嘘だ。キャンプなんてしたことない。


『そんなの……』


ソラが心配そうな顔をする。でも、推しに野宿なんてさせられない。絶対に。


「ソラちゃんは暖かいベッドで休んでください。俺は外で星空を見ながら寝ます。ロマンチックでしょ?」


『健太くん……』


結局、ソラが部屋に入った後、俺は宿の裏手で段ボールを敷いて横になった。


「寒い……」


異世界とはいえ夜は想像以上に寒かった。でも、ソラちゃんが暖かい部屋で安眠できてるなら、それで十分だ。


「これも推し活の一環だ……」


震えながら空を見上げる。星がきれいだった。


-----


「健太くん!大丈夫?!」


朝、ソラが俺を揺り起こした。どうやら風邪を引いたらしい。鼻水が止まらない。


「だいじょうぶれす……」


『全然大丈夫じゃないじゃない!』


ソラが俺の額に手を当てる。推しとの接触!でも熱があって朦朧としてる。


『なんで野宿なんて……お金が足りないの?』


「ばれた……」


『どうして最初から言わないのよ!』


ソラが怒ってる。推しに怒られた。たすかる。


『私のせいで健太くんが……』


「違います!」


俺は咳をしながら立ち上がった。


「これは俺の選択です。ソラちゃんには、いつでも最高の環境で過ごしてもらいたい。それが俺の……推し活です」


『推し活?』


「要は、応援することです。ファンとして、推しの幸せが最優先なんです」


『でも、あなたが倒れたら意味がないじゃない!』


そう言って、ソラは俺の手を握った。


『これからは、一緒に節約しましょう。二人で1部屋でも平気よ』


「え!?」


推しと同室!?


『その代わり、もう無理しないで』


「わ、分かりました……」


風邪で朦朧としながらも、俺の心は踊っていた。


-----


その日の昼、俺たちは次の街を目指して歩いていた。


「すみません、ソラちゃん。お金のやりくり、もう少し上手くやるべきでした」


『謝らなくていいよ。でも今度から、一緒に相談してね?』


「はい」


『それより、健太くん』


「なんですか?」


『あなたって、本当に優しいのね。自分が辛くても、私のことを最優先に考えてくれて……』


ソラの頬が少し赤くなった。


『私、健太くんみたいな人、初めて』


「ソラちゃん……」


俺の心臓が高鳴る。これは……恋愛フラグ?


でも、その時──


「きゃああああ!」


前方から女性の悲鳴が聞こえてきた。


『魔物よ!』


道の先で、旅の商人が巨大なオーガに襲われていた。


「あれは……お金持ってそう!」


『健太くん?』


「いや、困ってる人を助けないと、ですね!」


もちろん人助けが第一だが、オーガクラスなら金貨を落としてくれるかもしれない。


「ソラちゃん、久しぶりに黄スパでいきましょう!」


『了解!』


こうして俺たちの貧乏生活は続く……


でも、ソラちゃんと一緒なら、どんな困難も乗り越えられる気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る