ボトルメール。
夕藤さわな
マイレ。
潮の流れのせいだろうか。実家の目の前に広がる砂浜には海を漂流して様々な物が、様々な国から辿り着く。プラスチックゴミやヤシの実なんかといっしょにボトルメールも年に何度も流れ着くからロマンもへったくれもない。
親に庭同然の砂浜のゴミ拾いを命じられて嫌々、しに行くときに見つけるのだから良い印象もない。
栓を開けて中身を取り出し、ビンは資源ごみへ。助けを求める手紙だと困るから念のために内容を確認。スマホで撮って翻訳をかければ大体の内容はすぐにわかる。たまにひどいクセ字で読み取れないこともあるけど、そういう手紙も含めて一通として助けを求めるような切実な内容の手紙はない。
見ず知らずの誰かに向けた言葉。
あるいは過去や未来の自分に向けた言葉。
本人は感傷的な気持ちで手紙を書き、ボトルメールを投げたのだろうけど受け取ったこっちにしてみればただのゴミ。自己陶酔しきった言葉の羅列にげんなりしながら丸めてゴミ袋の中に放り込むだけ。
やっぱりロマンもへったくれもない。
「またか」
だからその日、そのボトルメールを拾い上げたときもため息とともに出たのはそんな言葉。
栓を開けて中身を取り出し、ビンは資源ごみへ。助けを求める手紙だと困るから念のために内容を確認。スマホで撮って翻訳をかけようとして――。
「……」
色鮮やかな絵に目を奪われた。
「マイレ」という葉を描いたハワイアンキルトなんかで使われる伝統的な模様だとわかるのは後々のこと。シンプルだけど静かな強さを感じる絵に心惹かれ、腕を引かれるようにハワイへと渡り、現地の女性と恋に落ちて結婚をした。
自己陶酔しきった言葉の羅列はあっさりとゴミ袋の中に放り込むことができたのに、言葉のない一枚の絵だけは捨てることができなかった。
今、ゴミ袋の中に放り込むことができなかったその絵は妻となった女性と共に選んだ小さな新居の壁に飾ってある。隣には彼女が最近、描いた「マイレ」の絵。
「マイレ」には「神聖な結びつき」「絆」という意味があるのだとあまりお喋りではない彼女が言葉少なに教えてくれた。
ところでロマンもへったくれもないと嫌々、砂浜のゴミ拾いをしていた過去の俺にボトルメールを送りたい。
ゴミ袋の中に放り込むことができなかった絵と妻が描いた絵。
二枚の絵のすみに小さく書かれたサインが同じなんだよ、と。
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