第3話 その場所には、確かに“何か”がいた──。
第2話の出来事から5年ほど経った頃のことだ。
同じく名古屋の某工場で、今度は別の装置の製造ラインの夜勤をしていた。
その日、現場にいたのは俺ともう1人だけ。工場は広く、夜は機械の音がやけに響いていた。
1人で黙々と作業していた俺は、材料の確認のために通路を歩いていた。
すると、十数メートル先に黒いモヤのようなものが見えた。
最初は「ん?」という程度だった。だが、目を凝らした瞬間、その黒いモヤがいきなり目の前に迫ってきた。顔に触れるほどの距離に。
その途端、体が鉛のように重くなり、まるで全身を押さえつけられたかのように動けなくなった。立っていられず、その場に倒れ込んだ。
時間の感覚は曖昧だが、解放されたのは1時間ほど経ってからだった。
⸻
後日、60代の先輩にあの場所で何かあったのか聞いてみた。
すると、20年ほど前にそこで1人亡くなった人がいるという。
休日出勤して1人で工作機械の点検をしていたが、油圧を切った影響で機械がゆっくりと降りてきて、挟まれて亡くなったのだという。
亡くなるまで時間がかかったらしいが、その日は他にも作業員がいたものの、他の機械や炉の音が大きすぎて、誰も気づかなかったそうだ。
だから──もしかしたら、あの黒いモヤは俺に「ここにいる」と気づいてほしかったのかもしれない。
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