あの〜、その魔物弱いですけど…… い〜や〜、怖いーっ!!

しょうわな人

第1話 Sランク冒険者


『ヤッタ! 母さん、俺は遂にやったよ!! 今まで王国に二人しか居なかったSランク冒険者の三人目に俺はなる事が出来たんだっ!! ユーリャ、やっと君に堂々とプロポーズ出来る!!』


 俺は国王様からのお褒めの言葉を聞きながら脳内では幼馴染のユーリャにどうやってプロポーズしようかと考えていた。

 そこに国王様からの依頼が飛び出してきた。今日は表彰式だけで依頼とかは絶対に無いってギルマスが言ってた筈なんだが……


「こたび、我が国で新たなSランク冒険者となったマーク・マッカイよ! そなたには子爵位と共に王国の剣となる事を余は望む。そして、我が国の剣となったマークに指名依頼を出させてもらおう!」


 国王様のその言葉にギルマスが抗議の声を上げてくれた。どうやらギルマスも知らなかったようだ。

 

「お待ち下さい陛下。今日はマークの表彰式であって、依頼などは出さないというのがこれまでの慣例です! 緊急の依頼ならば尚の事、ギルドを通して頂くのが筋というものでしょう!!」


「まあ、そう怒るなヤッセンよ。余も悪いとは思っておるのだ。しかしながら此度の依頼は危険はそれほど無いとの事。我が国にこれまで二人だったSランク冒険者に新たに人が加わるのならばという事で、その二人からの願いがあったのだ」


「なっ!? カールとガイザンからですか!?」


「左様。あの二人には今は王国一の危険地帯である魔竜山脈の調査に行って貰っておる。そこが終われば魔障地域の調査を依頼する予定であったのだが…… 二人とも魔竜山脈の調査が長引いておってな…… 新たにSランク冒険者が任命されたのならばそちらに振ってくれと余に言ってきたのだ…… マッカイ子爵はこの後、故郷に戻るのであろう? その故郷から少し北に進めば魔障地域になる。以前、三十年ほど前までは五年に一度は魔物暴走スタンピードがあった魔障地域が、ここ三十年は起こっておらぬ。勿論、起こらぬ方が良いのではあるが、何故に起こらないのかという原因を知っておきたいのじゃ。なので、マッカイ子爵の里帰りの期間を三カ月と長期にして貰い、その期間に調査をして貰えればと思っての。勿論だが了承してくれたならばギルドに正式に依頼として出すぞ。報酬は白金貨百枚じゃ。どうじゃマッカイ子爵よ、やってくれぬか?」


 いや〜…… これだけの数の貴族の方々を前にして断る勇気はさすがの俺にもありません国王様。さすがは近隣諸国から【喰えぬ狸】だと言われてる国王様だ。断れないようにこの場で依頼してきましたね……


 俺の故郷から魔障地域までは徒歩で三日、馬なら一日半で着く距離だからなぁ…… ギルマスの顔は目で断っても良いぞって言ってくれてるけれども、せっかくの表彰式を潰したら母さんが悲しむだろうし…… それに白金貨百枚はデカい!! 危険な竜種を討伐しても白金貨五枚ぐらいが相場なんだ。それが調査で百枚なら、受けても良いだろう。

 俺が今日まで生きて来られたのは引き際を見極めてきたからだ。きっと調査でも引き際を誤る事はない。だから俺の返事は、


「陛下、謹んでお受け致します」


「おお! 受けてくれるか! ならば宰相よ、マーク子爵の領地はマッカイ子爵の出身村を含む辺境地、グレスデーンとするのだ。これよりグレスデーンはマッカイ子爵領とする。異議のあるものはいるか?」


「異議なし!!」


 満場一致で異議なしだけど、それもその筈でグレスデーンは魔障地域をも含んでいる為広大ではあるけれども、領主は定期的に魔物討伐を行わなければならないのだ。

 俺の前の領主であるグレスデーン卿は男爵位であったが、魔物討伐を行わずに遠巻きに様子を見ているだけだった。

 まあそれでも三十年以上はスタンピードは起こって無かったので大きな問題は無かったのだが、それでもグレスデーン男爵の報告だけでは不安であったんだろうな。


 きっと王家の影を使ってグレスデーン男爵の周辺を調べたんだと思う。そこで報告書が嘘だったと知ったので俺に依頼をしてきたんだろう。


 フッ、まあ良いさ。ここで国王様に借りを作っておくのも悪くないだろうしな。

 それに俺の産まれた村をも含んで領地となったんだ。しっかりと調査してみせるぜ!! 


 という事で俺は産まれた村に戻ってきた。


 そして…… 絶望した……


 結婚することを約束していたユーリャは雑貨屋のダグと既に出来ていて、三人の子持ちとなっていたのだ……


 しかし、俺が国王様から子爵位を賜ったと風の噂で知ったのだろう。


「マーク! 私は貴方一筋なの! 信じてちょうだい! ダグには無理やり……」


 なんて言い出しやがった…… いや、無理やりで三人も子は産まんだろうよ、ユーリャ……


 まあ俺も新興貴族なので不敬罪とかは適用はしなかったが、ユーリャとダグの両親には二人がしっかりと産んだ子供を育て、俺には絶対に近づかないようにさせろと命令を出しておいた。

 幼い頃にお世話になったユーリャやダグの両親に半ば脅しのような言葉を言うのは本当は心苦しかったのだが、四人は俺の気持ちを知ってくれていた。

 

「済まないな、マーク。いや、領主様。子供らにはしっかりと言い聞かせます。領主様のご迷惑にならない様に徹底します!!」


 ユーリャとダグの父親がそう言ってくれたので俺は信じる事にした。そして、俺は母の墓前にて今の俺の事を報告した。


 俺のやり方に対しては母さんは天国で微笑んでくれてると思う。


 そうして、心に少し傷を負ったが俺は着いた翌日に産まれた村を早朝に出て魔障地域へと調査に向かったのだった。

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