願望器
「ふむ、よく摘んできたな」
土まみれになって戻ってきた、ちょっと気まずい私たちにそう言って店長が差し出したのは、掌にすっぽり収まるほどのガラス製の可愛いらしい小瓶だった。
少年が持つその瓶を一緒に覗き込むと、中にはほんの少しだけ金色の粉が舞っていて、表面の繊細なガラス細工の反射でキラキラ光るのが見える。
「これにその薬草を入れておけ」
少年は店長の言葉に、驚いたように目を見開いた。その手には、得体の知れない謎の雑草。どこをどう見たってただの雑草にしか見えないけど。
でも、少年は「あ、ありがとうございます!」と声を弾ませ、小瓶を大事そうに抱え込む。
少年の手には少し不似合いで大きめなガラスの小瓶に、大事そうに詰められるただの雑草。
なんだかアンバランスなその様子を眺めていると、小さい頃に他愛もないごっこ遊びにお母さんの私物を勝手に使ってめちゃくちゃ怒られたのをなんとなく思い出した。
そして、微笑ましいような感じに見えるその光景を、うふふと生温かく見守っていたけど、ふと我に返る。
私は、小瓶と店長の顔を交互に見ながら、グイっと背伸びして店長の耳元に顔を近づけて小さく口を開いた。ちょ、店長、背高いな。
「……いや、ちょっと待ってください。店長、それって何なんですか?」
「小瓶だが」
「いや、見ればわかりますけど! なんでただの雑草を入れるんですか? 保存するほどの価値あります?」ひそひそと。
「雑草ではない、貴様らが摘んできたそれは万病に効く薬草だ。そうだろ、少年」
「う、うん!」
大人に言われて自信がついたのか、その表情が一気に明るくなる。しかも、その大人は冗談なんて言いそうにない怖い顔の紳士だ、そんなの信じてしまわない方が難しい。私は店長が善の道を歩んでくれていてよかった、と心の底から思った。
なんだかその表情があまりにも年相応の子どもらしくて、私も思わず微笑んでしまう。子どもってこういうのでいいんだよ、こういうので。
「妹さん早く元気になるといいね」
「うん、今度は妹と一緒に遊びに来るね!」
元気に走っていった少年を見送り、そっと閉まった扉の鈴が名残惜しそうに鳴り止んだのを確認してから、私は、じとり、隣の店長を睨み上げる。
「いいんですか、店長、あんな嘘ついて。いくらそういう設定だからって本気にしちゃったらかわいそうですよ」
「いや、あの少年はあれを薬草だと思わなければならぬ」
「は? どういうことですか? あれって本当に薬草なんですか?」
「雑草は雑草だ、あれには何の薬効もない」
「え、それじゃあ」
「肝心なのは、あの小瓶の方だ。あれは、入れた物を持ち主の望む物へと変えるのだ。あやつが万病に効く薬草を望んだのならば、あの雑草はそう変わるだろうな」
店長がこんなにも大まじめに少年の設定に付き合ってあげているのにちょっとびっくりしちゃった。
もう少年が戻ってくる気配はない。それなのに、店長はまだあの小瓶を魔法のアイテムみたいに語っている。店長がとっても真摯なのか、それとも、底なしに優しいのか、ちょっとおバカなのか、私には計り知れない。もうなんもわからない。……って、いや、ちょっと待って?
「それじゃあ、あの小瓶って」
「うむ、この店の商品である」
「代金! ……は、まあ、今回は勘弁してあげるか」
「ふ、貴様も丸くなったものだな」
「どの口が言ってるんですか」
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