第11話アキトの過去


雷は目を閉じると、景色が歪んだ。

開けた瞬間、見覚えのある街角――雨の音だけが鮮明に響く世界に立っていた。


そこにいたのは、幼いアキトだった。

濡れた制服の袖を握りしめ、小さな妹を守ろうと必死で立っている。


「泣くな、俺が守る……絶対に」


震える声の奥には、必死に隠している弱さがある。

雷はその光景を見守ることしかできない。

声をかけようとしても、届かない。


妹を抱き寄せるアキトの背中は、小さくも力強かった。

雷は胸を押さえ、静かに呟いた。

「アキト……ずっと強くあろうとしてたんだな」


景色は霧のように消え、雷だけが現実に戻された。








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