返却されたテストの点数は絶望的…⁉

 七月初旬、梅雨の湿気を帯びた教室に、テスト返却の緊張感が漂っていた。

 高校二年生の鈴木正真すずき/しょうまにとって、この日はあまり心躍るものではなかった。

 数学のテストはそこそこ自信があったものの、どこか胸騒ぎが増していたのだ。


「鈴木正真!」


 男性である数学教師の野太い声が教室に響き渡る。

 正真は点数を見たくないなと小さく呟きながら、気だるげに席を立つ。

 教壇で渡された答案用紙に目を落とした瞬間、正真の顔が一気に曇った。


「マジかよ……65点? 嘘だろ……」


 予想はしていたが、実際にその数字を目にすると、胃がキリキリした。

 今回はイケると思ったのだが、この裏切り。その絶望感に肩を落として席に戻ると、右隣から明るい声が弾けるように飛び込んできたのだ。


「ね、正真! テストどうだった?」


 声の主は、小学生の頃からの幼馴染で腐れ縁の伊藤愛華いとう/あいか

 ポニーテールに揺れる長い髪、キラキラと輝く瞳、そして小悪魔的な笑みを浮かべる彼女は、正真をからかうのが生き甲斐のような存在だった。

 正直なところ面倒くさい。


「普通だよ、別に……」


 正真はそっけなく返し、答案を机の下に隠そうとしたが、愛華の鋭い視線にガッチリ捕捉されたのだ。


「ふーん、65点? やっぱりね~!」


 愛華がニヤリと笑う。その得意げな顔に、正真のイライラがじわじわと膨らむ。


「なんだよ、じゃあ、お前は何点なんだよ?」

「ふふん、80点! 私の勝ち~!」


 愛華が胸を張ってドヤ顔を披露。

 正真の顔はさらに暗くなり、唇がへの字に曲がった。


「え……なんでこうなるんだよ……」


 頭を抱える正真に、愛華はさらに調子に乗ってクスクス笑う。


「ほらほら、負けは負け! 潔く認めなよ、正真~!」


 その瞬間、正真の視界に答案の一問が飛び込んできた。解答は絶対に合ってるはずなのに、なぜかバツ印。

 ピンときた正真は、勢いよく手を挙げた。


「先生! この問題、採点ミスじゃないですか?」


 その一言に、教室が一瞬ざわつく。正真は教壇前に向かい、自身の答案用紙を先生に見せる。すると、先生は眉を寄せ始めて――


「おお、確かに。これは俺の採点ミスだな」

「じゃあ、これ点数が上がりますよね」

「そうだな。すまんかったな」


 先生から正式な返答があり、内心、正真は希望に満ち溢れ始めていた。

 点数は修正され、75点。結果として、愛華との差はわずか5点。まだ逆転のチャンスはある。

 正真が席に戻ると、その隣の席で、教壇前の様子を見ていた愛華の顔が、みるみる曇っていく。


「え、ちょっと待って! それって……私の負けってこと? ここが修正されたら……70点⁉」

「ドンマイだな、愛華!」


 今度は正真がニヤリと笑う。

 愛華は頬を膨らませ、悔しそうに叫んだ。


「うそ、なんでこうなるのよー!」


 負けず嫌い全開の愛華は、渋々ながら教壇前へと向かって行く。その背中を見ながら、正真はくすっと笑った。

 この幼馴染とのバトルは、いつもこんな調子なのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る