ゲート/→ワールド -2011 TOKYO- The Next Night: Beyond the Gate

‪†‬らみえる‪†‬

#壱ノ廻「ワールド/→シャドウ」

  「──ッ、おわああああああーーーっ!!!!?理不尽テンプレにも程があるだろうがああああああーーーっ」



 高校生くらいの学生はとっくに家に帰っていなければならない絶妙な時間帯。それは夜の10:00。

 そんな中で、一人。とある学生は足元を必死に残像にして、繁華街とかい暗闇光ネオンの中をみたいに、メタく叫んで駆けていた。



 それは……そう。──オレ、というかわたくし。『星丘龍樹ホシオカリュウジュ』は命を脅かされている。

 理由はすっごい簡単。星丘龍樹が2、3人の不良チンピラ達にゲーセンの格ゲーで連勝ったから。

 ──で、理不尽にも悲しい今現在。こうして幽桜ユウザクラ市の夜景を全力疾走している訳だが────。



「はァっ、はァっ、あんの煽りカス野郎……ッ、クソ速ぇ……っ」

「何なんだ……っ、あの体力バカは……ァっ……もう一時間も走ってやがんのに……っ、全然スピード変わんねぇ……っ」

「待ちやがれイキリ野郎があああああ……っ!!!!」



 っ、──はあ、『遅い』……。

 あまりにも『遅い』。


 おまけに体力も無いんじゃ、話にならない。もっと足が速くて、体力があれば『最高の非日常』を楽しめたというのに。根性すら無いとはなんたることか。



「おわああああああ!!!!──……って、なぁんてな? ──ったく……。最近のチンピラは根性ねぇーな……。おまけに体力もねぇーんじゃあ、折角ラノベっぽいカッケー展開も映えねぇじゃねーか……」



 なんだか可哀想に思えて仕方なく止まった。そう、

 ──別に、星丘龍樹が『』だから……、



 ──という訳では決して、決して。決して!……無いのである。



 そういう訳で三人のチンピラ達は、星丘龍樹が止まった事で、フラフラに歩き始め、一歩、二歩、三歩。

 ──そしてリズムよく一人バタッ二人バタッ三人バタッと倒れる。



「っはぁ……拍子抜けだぜ、ったく……。てめぇらよぉ……さっきのゲーセンでの威勢は伊達ってか?!」


 返答が無い。

 なのでもう少しだけ煽ってみる。


「ゲームに負けたぐらいでキレんなってw オレがちょーっと下段中段と無敵技擦っただけだろw ほら、インフェルノディバイダー!!オリャっ!!」


 ……返答が無い。

 なのでもう少しだけ煽って……いや、待て。



「……あ、あのー……チンピラさん? その手に持っている『携帯』の様なモノはなんでしょーか……?」

「……センパイ……っ、カタキ、取って、下さい……っ」


 返答が無い。

 何故なら


「へ、へへ……っ、テメェは……っ──」


 と言って不良チンピラの一人が気絶した。で、その時──



 ──ヴルルゥンッ!!!!



 と、が、たった今気絶し倒れた不良チンピラ発端トリガーとして、埼玉県草加市と東京都足立区の境目に存在する小さな都市──、ここ『埼玉県幽桜市天野町サイタマケンユウザクラシアマヤマチ』中に幾つも鳴り響いた。


 まるで、RPGのボス戦みたいに────



「──は、はあ……? マ、ジ、で、す、かぁ……? っ────『援軍』かよおおおお!!!!」



 そして再度、今まで余裕だった星丘龍樹は、今になって本気で焦って走り出した。


 根性無しの高二の上級生チンピラを二、三人ならまだしも、

 そのまた上位存在── 力が根本的に違う高三の上級生チンピラとなると、いくらケンカが強い高一の龍樹には、流石に手も足も出ない。


── だが、ようやく楽しくなってきた。



「クッ……ソおおおおおおお!!!!!!」



 そして問題なのは明日だ。

 今、無事に逃げられたとしても、自分が通っている高校にカチコミに来るかもしれない。

 あまり周囲の人物には迷惑は掛けたくないし、巻き込みたくない。こういうのは自分だけでやりたい。不幸に遭うのは自分だけでいい。



「でもどーする星丘龍樹!!!!このまま大人しく『日常』に逃げろってんのかよおっ!!!?」



 ──『』。


 龍樹にとって、周囲に満ち溢れるは果てしなく退屈な事だった。

 世間では、次々に起こる『行方不明事件』や今年の四月に関東で起こった地震であらゆるメディアの話題はそれっきり。


 龍樹はそんな悲しい事件でさえ、不謹慎ながらにココロを一瞬踊らせた。


 そんな最低な厨二病ヤツが、こんな『』に身を投げられる機会チャンスなど、簡単に手放す訳が無い。


 ……いや、だが。家族全員が『龍樹教信者リュウジュきゅんLove』な、お節介家族に捜索願いを出されるのも、流石に胸が痛くて申し訳ない……──と思った矢先、



「あ……そういえば……。──って、やべっ!?」



 猛獣バイクおたけびが星丘龍樹に近付いてきた。それと同時に意味も無く走っていた星丘龍樹は方向を転換し、何かを思い出したかの様に『天野アマヤ駅』へと向かった。



「あれ……星丘君……? なんで駅に……──もしかしてッ!!?」



 同じく『駅』へと向かう、『三つ編みおさげの少女』は、クラスメイトに気付かず通り過ぎる星丘龍樹を目撃して、助ける様に駅へと駆けた。



 ◇




「……茶髪のカチューシャにブレザー腰に巻いた年下クソガキ……──アイツか」



 ──路地裏。猛獣バイクに跨り待ち伏せしていた、ライダースジャケットを着たゴーグルの男は、全力疾走で気付かずに一瞬で通り過ぎる星丘龍樹を見て、携帯電話を手に取った。



「テメェ……、ロリガキ。本当にアイツでいいんだな?」

「ああ……、何千年も待ち続けて漸くようやく見つけたんだ。そんな私が『契約ブックマーク』にする相手を、見間違える筈などある訳がないだろう?」

「チッ、嘘つけ。テメェ今までどんだけ俺を使いパシって来たんだよ?」


 少し悲しそうに、ゴーグルの男は指摘した。


「……ふふ、あぁ……すまないな」

「それも『嘘』だ。テメェはヒトの気持ちなんて理解出来ねぇ」


 少女は「……ふふ、ああ……、本当にそうだな」とまた笑って、



「……何故なら私は『バケモノ』だ。オマエらヒトの気持ちなど、に理解出来ない……そんな虚無で虚空で盈虚でな──



 ──邪神バケモノだ」



 ◇



「ッ、はあっ、はあっ。……クソっ、やっぱ迷惑掛けらんねぇっ!!……もう掛けてるかもしんねぇが……──とにかく家帰んねぇと!!」


 そう言って龍樹は改札をICカードでスムーズに通過する。その動作の過程で、チラッと後ろ見るとガタイの良い追手チンピラが四人程。

 ヤツらは時代に取り残されているので切符。『ざまあみろw』といった感じで、この際にダッシュで距離を離す。


「かがくのちからってすげー!!!!……って、ん? ……なんかがヒトリ、ツイテキテマセン?」



 ──ヴルルゥンッ!!!!



「ハ……?」



 ──ヴルヴルゥ────ッ──ヴゥゥ──!!!!



「エ……ウソ……デスヨネ??」



 駅構内に響き渡る猛獣バイクおたけび。改札をそのままウィリー走行で突き破る音。



 ────猛獣バイクヘッドライトは、星丘龍樹こちらを捉えていたッ!!!!



「おいおいおいおい……待て待て待て待て────っ!?!?」



 止まりはしない。狼が獲物を群れで決して逃さないのと同じ様に。

 猛獣バイクは止まるどころか、唸りを上げて更に加速する────



「避けろ避けろ避けろ避けろ────っ、龍樹オレッ、避けろおおお────っ!?!?!?!?」


 加速を続ける猛獣バイクを紙一重で避けて、


「うグっ──本気マジパねェっ!?!?!?」と叫ぶ。



 本当に死ぬかと思って星丘龍樹は流石に逃げた。自分の脳に刻まれている通学路を頼りにして、ホームへと繋がる階段を慌てて降りた。その残り一分以内で出発する電車に何とか間に合わせる為に。


 だが、何故だろう?この

 アレには乗ってはいけないと、に震える足が、必死に伝えているハズなのに。



 ──ヴルルゥンッ!!!!



 そして階段はあと十五段、その時──また聞こえた。



「マジかよっ!!!?」



 速すぎる。避けても尚、壁にぶつからなかった?……まさか、それはどんな神業が為せる事か?

 龍樹が見た限りでは、400kg級ハーレーの大型バイクだ。おまけに80km程の速度が出ていた。


 それを、もし事故をしていたとして400kgを軽く持ち上げ、まさかとは思うがとしても、だ。



 このを、80kmにも関わらず、『壁に衝突しなかった』だなんて。


 こんな事してないで早くレーサーになれ!!!!



「はあッ……!! はあッ……!!!! んだ、この違和感──っ!!?」



 ──ヴルルゥンッ!!!!



「来やがった!?」



 その猛獣ハーレーは、遂に姿を現した。

 それは──もう既に、捕食する為に、階段から、



 ──────飛びかかっていた。



「嘘だろ死ぬだろお前もオレも!?」

「おう、テメェだけ死ねや」



 容赦が無い。そんな猛獣使いドライバーの一言。


「──クッ……──避けろオ──────っ!?」


 猛獣ハーレーおたけびが凄まじい中で、再度紙一重で避けながら。その一言は聞き取れた。

 何とか星丘龍樹は、身体を捻って避ける事に成功したのだが──


 ……ああ、ヤバい。


 恐怖だった。震えた。

 足は今も尚、必死に訴える。



 すると、駅のチャイムがホームに鳴り響く。

 ──電車が発車する合図だろう。


 そうやって安堵した。

『そのまま行ってしまえ』と。何故か、思ってしまったのだ。が。



「違和感──っ」



 ──いや、乗る。今の状況は確実に乗った方が良い。

 こうしてより、が勝つ。



 ──ヴルルゥンッ!!!!



 最早、ここまで来たら『猛獣』より『死神』の表現の方が適切な気がする。



「いや無理があるだろ!?!?!?」



 もうアナウンスが入って、扉は閉じようとしているのに、バイクは扉目掛けて



「マジかマジかマジかマジか────っ!!!!」



 タイヤがギリギリで扉に挟まる。唸り声エンジンは止まらない。──このまま無理やり車内に侵入するつもりだ……!?



 ──ヴルルゥンッ!!!!

 ──ヴルルゥンッ!!!!

 ──ヴルルゥンッ!!!!



 と、唸り声エンジンをあげる度に、鉄の乗車扉は何故かパワーに負けてひしゃげ始める。



 ──ヴルルゥンッ!!!!

 ──ヴルルゥンッ!!!!

 ──ヴルルゥンッ!!!!



 ガシャあ……グギぃ……がしゃああ……と。段々ひしゃげて猛獣ハーレーもその度に車内へ侵入してくる。


 そして、それが後に数回繰り返され、完全に侵入を許してしまった。


 何も出来なかった訳ではない。自分の足が震えて使い物にならなかったからである。



 そして──



「よお、



 別に焦るでもなく、恐怖するでもなく、声を荒らげる訳でもなく。はただソレが『仕事』かのように言った。


 同時に電車は『非常停止ボタン』が、時刻通り、当たり前の様に出発する。



「誰だてめぇ……っ!!!!」

永井零二ナガイレイジ。テメェのだ。……ガキのお守りくらい出来んだろ?」

「……は、何言って……」



 ──ヴルルゥンッ!!!!



 死神に等しき猛獣ハーレー手綱ハンドルを回し、星丘龍樹を威嚇する。


「だが俺はテメェが気に食わねぇ。ツクヨミは俺が殺す。これはその一方的な八つ当たりだ。だからテメェも殺す」

「ぁ…………ク──クッソおおおおおおおお!!!!」



 龍樹は走る。


 その瞬間、猛獣ハーレーはウィリーでガシャン!!!と乗車ドアに突進し、星丘龍樹(16)は無傷で死にかける。


「パねェパねェパねェパねェ……パねェって!!!!」


 逃げ場は無い。違和感はあるが。

 とにかく逃げる。違和感はあるが。


 星丘龍樹は走る。永井零二は走らせる。

 連結部のドアを次々と開けて、自動で閉まっては破壊されて破られる。



 ──何故気付かない?──



「あ………………なんだこの電車……」



 さっきからずっと、何故かやけに静かだった。ケータイを見て現在時刻……10:30。時間が時間だが、だ。



 何故、



 そして、次に星丘龍樹は気付く。


「──圏……外、っ?」


 星丘龍樹のケータイは圏外を示していた。バリサンどころか、柱はゼロ。


 おかしくないか?



 星丘龍樹はとっくに足を止めていた。

 最早、恐怖で酷く震える足には力が入らず、使い物にならない。


 今更の後悔が、星丘龍樹を襲った。


 後方から聞こえるのは、この場における捕食者プレデターである猛獣ハーレーの咆哮と次々と連結部の扉を突き破って来る音。



 そして最後に、星丘龍樹は気付いた。



「噂ってのは……本当、だった……っ!?」



 都市伝説。

 目の前でそびえ立つ

 バケモノ。





 もうここはとっくに──『非日常』だった事に。

 ---

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る