第5話 『お父さん……!』

警察署の出入り口。立番の警察官が鋭い目で周囲を警戒している。


「お父さんに会わなきゃ……でも、一般人が署内をウロウロすれば不審に思われる」

未来は焦り、頭を掻きむしりながら途方に暮れた。


その時、目に留まったのは、立番の警察官に話しかける一人の男。

右手には、金色の縁取りがけばけばしいロレックスが輝いている。


「お父さん……!」


思わず声が漏れた。

男が振り返る。若く、精悍な顔立ち。未来の記憶にある父よりも血気盛んで、鋭い目つきをしていた。


未来は息をのんで駆け寄る。


「……あんた、誰だ?」


父の声に未来は言葉を失った。潤んだ目を拭い、唇に力を込めて決意を固める。


「君島誠一刑事、ですよね?」


父は怪訝そうに眉をひそめる。


「なんで俺の名前を……」


「私は――あなたの娘です」


父の目が大きく見開かれ、沈黙が訪れる。

やがて、半笑いで呟いた。


「冗談はよせ。俺は独身だし、そんな娘がいるわけない」


未来は涙を滲ませながら続けた。


「本当なんです……!未来から来たんです。あなたの娘、君島未来です」


父はしばらく未来を睨むが、その必死の目に、少しずつ警戒をほどいた。


「未来……?」


父の口から漏れたその名には、懐かしさが混じっていた。


「お父さん、あの時計。小さい頃からずっと見てました。ダサいと思ってたけど……でも、それであなたが本物だってわかったの」


父は腕時計を見下ろし、驚いたように眉を上げた。


「……なるほど、面白いことを言う」


未来は次々に証拠を並べる。


「父さんの体には、鉄棒から落ちてできた古い傷があるはず」

「母と出会ったのは夏祭りの夜の屋台で……」

「好きな食べ物はカツ丼、夜中に一人で歌うのは“この世を花にするために……”」


父の目が大きく見開かれる。


「お前……なぜ、それを……」


「だって……私、娘だから」


その瞬間、父の胸の奥で何かが崩れ、新たな何かが築かれた。


「……まったく、頭がおかしくなったとしか思えねえ話だな……未来人で?俺の娘?」


「もう信じてよ!こんな事知ってるのは家族だけでしょ? なんなら中学の初恋の話もするけど?」


未来は少し意地悪そうに笑い、父は明らかに動揺していた。


「くそっ、分かった分かった。信じるしかねえな。ただお前を娘とは認めてない。ただ俺の事をこんなに知ってるのは気味が悪い。いいだろう、話くらいは聞いてやる」


未来は強く頷いた。やっと――父と繋がれたのだ。

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