第18話 レアアイテムゲット③

 そして、再び体育館倉庫内——。


「ちょ、本当にやめろって!」

「大人しくしやがれ!」

「誰がするか!」


 ナイフで脅されようが、殺されないと分かった今、暴れない手はない。

 ただ、もう随分と負傷し、白かった体操服は真っ赤な血で所々汚れている。


 そして、あの身だしなみチェック用の鏡がそうかは分からないが、可能性がある今、あれを取りにいかなければ。


「ライアン様、一旦コイツに攻撃を」

「たく、『様』を付ければ言うことを聞くと思うなよ」


 と言いながらも、長い棒でパシッと男の尻を叩くライアン。案外チョロ……頼りになる男だ。


「ふぎゃッ」


 一瞬男の力が弱まった。その隙に、俺は扉の横にある鏡へと一直線に走った。


 鏡を取ろうとしたその時——。


 ガシャンッ!


 扉が大きく揺れた。


「なんだ? もう時間か?」

「マズイ、まだ一回もヤッてねぇ」

「ひとまず、ボロボロにしとくか」


 再びガシャンと扉が揺れ、男らの攻撃が俺に集中した。


 水と草とナイフが飛んできた。


「カイル、伏せろ!」


 ライアンが叫ぶが、俺はそのまま鏡に向かって跳んだ。


「よし!」


 鏡を掴んだ俺は、その場でクルクルっと地面を転がり、一か八か目の前に鏡を掲げた。刹那——。


 ピカッ!


 鏡が光り、攻撃は全て男らに跳ね返った。


「ギャッ」

「何だよこれ!?」

「うわッ!」


 男らは壁に打ち付けられたり、ナイフが足に刺さったり、ツルに吊し上げられたりと三人が三人とも、すぐには動けない状態になった。


「やった」


 ホッとし、その場にへたり込めば、扉が蹴破られた。


 ——ゴンッ。


 俺はそれに頭を打ちつけた。


「あれ? ここじゃなかったのかな」


 クロードが入ってきた。


「ベルクール侯爵子息だけか。マクシミリアン殿下が探してたよ」

「あ、ありがとうございます」

「ねぇ、カイル見なかった?」


 ライアンは、呆気に取られながら扉の方を指さした。


「そちらに」


 クロードが扉の裏をそっと見た。


「わッ、カイル!? 大丈夫!?」


 焦ったクロードは、俺を抱き抱える。


「こんなに血塗れで、誰にやられたの? 仇を討ってくるよ」

「血塗れは、あの男……」

「あいつらだね。こんな大きなタンコブまで作って、痛そう」


 そこへライアンが近寄ってきた。


「あ、そのタンコブはですね。先程、クロード様が」

 

 言いかけたところで、俺はライアンをキッと睨み上げた。


「これも、あの男達にやられたんだ。ね、ライアン様」

「あ、ああ……そうだったかな」


 俺はクロードの首にギュッと絡みついた。


「怖かった……」


 そんな俺の頭をクロードは優しく撫でてくれた。


「ごめんね、カイル。すぐに見つけ出すことが出来なくて」

「ううん。来てくれて嬉しい」


 よし、これで助けに来たヒーローが、悪役のライアンからクロードに変換されたことだろう。


「クソッ、どいつもこいつも邪魔しやがって!」


 男が水の弾丸を放ってきた。

 同時に、クロードが片手を上げれば、そこに氷のシールドが出来た。水の弾丸はシールドによって弾き飛ばされる。


「邪魔してるのは、そっちでしょ。僕らの邪魔しないで」


 クロードが、上げた手を振り払うように下ろす。すると男の足元から氷がせり上がり、両足もろともその場が氷漬けになった。


「冷てッ! って、動かねーし! どうなってんだよ!?」

「ついでに魔法も使えないようにしとかなきゃね」


 男の周りに氷の粒子が飛んだ。それらは一箇所に集まり、縄のように形を変えてギュッと男の腕ごと胴体を締め上げた。


「すげぇ……」

「残りの二人も、早くかかっておいでよ」


 クロードが挑発すれば、ナイフの男が太腿に刺さった自身のナイフを引き抜いて、よろけながら走ってきた。


 威力がないのは明らかだが、クロードは容赦しない。これでもかと言わんばかりに男の上に氷の礫を降らせた。


 男は転び、もろに氷の礫をあびていく。


「い……痛……いて……ぐ……」


 次第にうめき声も聞こえなくなり、気絶してしまったようだ。ピクリとも動かなくなった。


「あと一人だね」


 クロードがギロリと男を見れば、目を閉じて床に寝転がった。まさかの死んだふり。


「ま、良いけど」


 そう言いながら、クロードは大きな岩のような氷をズシッと男の腰の上に置いた。


「お見事です。さすがクロード様」


 ライアンが拍手する。

 俺も感心せずにはいられない。


「クロード、フェンリルの時より強くなってないか?」

「へへ、シリルに教えるついでに僕も鍛錬してたんだよ」

「さすがクロード。抜け目ねぇな」


 クロードは照れた素振りをするが、どこか切ない表情を見せる。


「これってさ、やっぱりエレノアの仕業……だよね?」

「あー、うん」

「だよね……」

「だからって、クロードがそんな顔する必要ないだろ。悪いのは全てあのお嬢様なんだから」


 しかし、クロードは首を横に振る。


「元はと言えば、僕のせいだから。僕が父上を説得できずにいるから。だから、カイルをこんな危険な目に合わせちゃって……」

「クロード……」


 なんと言葉をかけるのが正解なのか分からない。しかし、何か言わないと、クロードがそのままいなくなってしまうような気がした。


 俺は、ニッと笑った。


「これからも俺を守ってくれよ。クロードがいなきゃ、俺すぐ死にそう」

「カイル……」

「何でも良いけど、早く体育祭戻ろうぜ」


 辛気臭いのを払拭しようと、あっけらかんとして言えば、クロードに全否定された。


「ダメに決まってんじゃん。こんなに傷だらけなのに。馬鹿じゃないの? 今日はこのまま帰るよ」

「俺の唯一の楽しみ奪うのか!?」

「唯一の楽しみが体育祭なんて、どれだけつまんない人生送ってんの?」

「仕方ないだろ。俺が活躍出来るのコレくらいなんだから。それに……」


 クロードから目を逸らして呟いた。


「クロードの格好良いところを見られるチャンスでもあるんだぞ」

「カイル……」

「ご褒美だって、欲しいんだろ?」


 ギュッと抱きしめられた。


「うん!」


 ——とにもかくにも、レアアイテムも手に入れたことだし、一件落着。ベンジャミン・フランクリン効果で、クロードとの仲もより一層深まったことだろう……ん?

 

 何やら、視線を感じる。


 見れば、ライアンがじっとコチラを見ていた。そして、目が合えば、ポッと頬をピンクに染めて目を逸らされた。


(まさか、こっちにもベンジャミン・フランクリン効果が……? いや、まさかね)



~~~~~~~~~~~~

※ベンジャミン・フランクリン効果とは

「相手を助けた自分は、この人を好意的に思っているからこそ助けたのだ」と自身の行動を正当化し、結果として相手への好意が芽生える心理現象です。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る