第3話 課金アイテムは高級品

 アイテム店は、路地裏の奥まったところにある。


 カラン♪と出入りを知らせるベルが鳴ると、丸々とした恰幅の良い店主がコチラを見た。軽く会釈をし、店内を見渡した。


(すげぇ。ゲームのまんまだ)


 こじんまりとした店には、剣や盾、鎧など、ありとあらゆるものが置いてある。

 俺は、店主のいるカウンターの下のショーケースへと向かう。


「あった」


 ショーケースの中には、燃えるように赤い魔石や、深海のように深みのある青色の魔石、透き通るような白い魔石など、六つの魔石が置いてあった。


 ——魔石は、持つだけでその人の魔力を強化させてくれる。


 さて、ここで魔法について簡単に解説しよう!


 魔力には、火・水・風・土・光・闇の六つの属性がある。派生して、氷、雷、時、無なんてのもある。ファンタジーならではのやつだ。


 基本全てにおいて使えるのだが、人はそれぞれ得意不得意がある。

 それを五歳の時に教会に行って診断してもらい、『あなたは◯◯属性ですよ』と言われ、それを強化していくのが我が国では主流となっている。

 たまに、全属性を制覇しようとして、全てにおいて中途半端な人間もいるが。


 そして、魔力量は上位貴族になるほど魔力量が多い。平民は、生活魔法しか使えない。俺としてはそれだけでも感動モノだが、つい先日までは、そんなことにも気付かなかった。

 

 それは置いておいて、俺は土、シリルは光。ここで兄弟の差が開く。しかも、シリルは王宮魔導士になれるほどの魔力量を持っている。


(今になって思えば、これが主人公とモブの違いだったんだろうな……)


 ちなみに、クロードも公爵の息子なだけあって桁外れ。属性も氷だから羨ましい。

 俺なんて魔力量も半端なく少ないから、土人形作って一人おままごとする程度だ。地味過ぎる……。

 一応言っておくが、男爵なんて貴族の中で最下位だから。俺の方が普通だから。例外なのはシリルの方だから。


 ——とまぁ、魔法の説明はそのくらいにして、そんな自分の属性を簡単に強化してくれるアイテムがコレ!


 あ、不得意な属性のを買ったって意味がないのでご注意を。


「白い魔石下さい」


 シリルの光魔法をアップさせてくれる魔石を注文すれば、店主が静かに応える。


「金貨三枚」

「え、マジ!? そんな高いの? 魔石って一回ポッキリだぜ?」

「払えないなら帰りな」


 確かに、魔石は課金アイテムだ。三百円くらい課金した覚えがある。

 しかしだ、この国の金貨三枚は日本円に直せば三十万の価値がある。

 貧乏男爵の息子の小遣いが、そんなにあるわけがない。しかも、魔石は一回ポッキリの消耗品。


「シリル……不甲斐ない兄でごめん」


 泣く泣く帰ろうと踵を返す。

 ポスッと額が誰かの胸板に当たってしまった。


「すみま……」

「はい、金貨三枚。これで売ってくれるよね?」

「え、クロード!? 何でここに」


 さっき別れたはずのクロードがそこにいた。


 驚いていると、店主がショーケースの鍵を開けて白い魔石を一つ取り出した。


「まいど」


 店主がカウンターの上に置けば、シリルがそれを取って俺の手のひらに乗せてきた。


「はい、欲しかったんでしょ?」

「でも……」

「必要なモノなんでしょ?」

「そうだけど……」

「さ、ここにずっといたら迷惑だから行くよ」

「うん」


 何だか申し訳ない気持ちになりながら、クロードの後ろをついて店を出る。


「どこに行ったのかと思って跡をつけてみたら、アイテム店だもんねぇ。自分の身分分かってる? 買えてもセール品のグローブくらいじゃない? やっぱ馬鹿だよね」 

「…………」

「なに黙ってんの? とうとう馬鹿って認めたの?」


 嫌味を言われても、返す言葉もない。

 俺は立ち止まって言った。


「クロード、ありがとう」

「え、やけに素直」


 振り向いたクロードと目が合う。

 しかし、すぐに目を逸らされた。


「か、勘違いしてもらっちゃ困るんだけど。それ、光属性の魔石だから、シリルにでしょ? だから代わりに買ったんだよ。君にじゃないから」

「それでも、ありがとう。お金は絶対返すから」

「それっぽっちのお金、返さなくて良い」


 クロードが賑やかな店が並ぶ方へと歩き出したので、俺も斜め後ろをついて歩く。


「いや、返すって」

「しつこいな。返したら一家没落においやるよ」

「うわ、権力振りかざしやがって」

「素直にもらえば振りかざさないよ」

「う……ありがとう」


 俺はもう一度礼を言ってから、拳大の魔石を鞄にしまった。


(捻くれてるけど、本当は良いやつなのかな?)


 色々あったが、これで二週間後に控えている野外活動はどうにかなるはず。好感度アップでハッピーエンドを目指してくれ、弟よ。


「カイル」

「ん?」


 クロードが腕を突き出して来た。


「エスコートしてあげる」

「は?」

「僕の相手してくれるんでしょ?」


 ニヤリと笑うクロード。一瞬良いやつかもと思ったのは気のせいだったようだ。



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