第27話 実技

 次の日の朝


 俺は今まで筋肉を育てることしかしていなかったが、今日ついに使い方を教わることになった。


 いつもと同じようにジャージに着替えて、庭に出るとジャージに着替えた湊がいた。


「あれ?湊なんで着替えてるの?」


 俺が驚き尋ねると、湊はドヤっと胸を張って言った。


「それは僕が隼人を鍛えるからだよ!実技は僕担当になった!」


「えぇ!湊にそんな事できるの?」


「湊様は強いですよ。隼人くんの相手は十分にできます。」


 俺の疑問に、縁側に座った帳くんが紅茶を飲みながら答えた。


「そうなんだ。お手合わせ願います!」


「はーい。それで、今回の実技は戦いのなかで隼人が相手に触れて、魔法を無効化できるようにします。」


「つまり、湊に直接触ったらいいってこと?ジャージ着てるから顔とか手ぐらいしか露出してないけど…。」


「普通はそんなもんですよ。実戦とほぼ同じです。湊様に触ってみてください。」 


 筋トレをこなした俺なら余裕だぜ!


「隼人。準備はいい?良かったら始めちゃうけど。」


「うん。大丈夫!」


 俺がそう言った瞬間、湊の顔から笑顔が消えた。


 その瞬間、俺は心臓を冷たい手で掴まれたような感覚に陥った。


「なんで急に無表情になったの?怖いんですけど。」


「湊様が戦う時は何時も無表情ですよ。気にしないでください。」


 気にするなと言われても、湊と喧嘩していた時を思い出す…。


 あの時の湊は確かに無表情だったけど、優しい眼だったのに、今回は突き刺さるような冷たい瞳だ…。


 とりあえず、さっさと終わらせて笑顔の湊と遊ぼう!


 俺は何も考えずに湊に向かって走り出した。


 湊は相変わらず何を考えているのか読み取れない、鉄の仮面のような無表情のまま動かずに立ち止まっていた。


 これはもらった!


 そう思い、手を伸ばし湊の顔に触れようとすると湊はすっと横に避けた。


 絶対に触れると思ったのに…。


 湊はわざと俺をギリギリまで引きつけたんだ。


 湊に触れず、体勢を崩した俺の背中に湊は肘で一撃入れた。


「ぐぇっ…」


 肺の中の空気が全部押し出されたような衝撃を食らった。


 俺は何もすることはできずに、地面に叩きつけられた。


「安直すぎる。バカの一つ覚えみたいな行動だね。」


 氷のように冷たく、鋭い言葉を湊は俺に浴びせた。


「ごもっともですよ。最初から触れるわけないじゃないですか。相手の隙を見たり体勢を崩してから触るんですよ。」


 帳くんからも罵声を浴びた…。


「湊が冷たいよ…。帳くんはいつもと変わらないけど、湊が冷たいのは心が傷つく…。」


「湊様は戦いの時になるとそういう感じですよ。気にしないでください。戦いが終わったらいつもの可愛くて、優しい湊様に戻るので。」


 それは良かった。


 俺は背中に痛みを感じながらも立ち上がり、再び湊に向かって走り出した。


 さっきは最初から触りに行ったのが悪い。


 だから、避けさせて体勢を崩してから触る!


 俺はわざと湊の顔に手を伸ばした。


 湊がそれを一歩後ろに下がって避けると、俺は片足でブレーキをかけた。


 そして再び、方向転換し湊の方に向かって走り出し、湊の顔に触れようとした。


 これはいける!


 そう思ったのも束の間、湊に手首を掴まれ、逆に距離を詰められ膝蹴りを腹に食らった…。


「ぐぇー。」


 膝蹴りを食らった腹部が熱く痺れ、俺は再び地面に転がった…。


 そんな俺を見下して、湊は淡々とダメ出しをしてきた。


「間合いの管理ができてない。間合いは一番大切なんだよ。相手が体勢を崩したり、自分を見失ったりして絶対に触れるって思ったら間合いを詰める。わかった?」


「わかりました…。できると思ったんだけどな…。」


 正直もうやりたくない…。


 肘打ちされたり、膝蹴りされて体が痛いのもあるけど、湊が怖いです…。


 俺はなんとか立ち上がり、また湊に向かった。


 今度はフェイント?を試してみよう。


 さっきと同じで、わざと避けられるように顔に手を伸ばす。


 湊は一歩下がって避ける。


 俺はまた顔に向かって手を伸ばす。


 だがこれはフェイクだ。


 俺はもう片方の手で、湊にバレないように手に触れようと伸ばす。


 今度こそいける!


 湊は俺の目を見ると、再び後ろに下がった。


 そして、俺の目の前から消えたかと思うと、俺はなぜか宙を舞い、地面に倒れ空を見ていた。


「ぐっ…」

  

 湊はしゃがみ込み、無表情のまま俺の顔を覗き込んだ。


「隼人の目から期待が見えた。罠にかかれって言う感じの。というか、君がどっちの手で僕の体に触れようとしても後ろに下がれば避けれるよ。ほかの案がいいね。」


 視界の端で帳くんが立ち上がり、俺たちに近づいた。


「隼人くんは湊様に触れました。今日はこれで終わりにしましょうか。」


 帳くんがそう言うと、湊は少し目を見開いた。


「触ってた?僕は感じなかったけど。」


「はい。湊様が足払いをした時に隼人くんの指先が湊様の手に少し触れました。」


「僕は油断してたみたいだ。自分が強いから有利だと思い込んでいた。よしよし。頑張ったね隼人。」


 湊はいつもの優しい声と表情に戻り、俺の頭をよしよしと撫でてくれた。


 今回は偶然、触れただけだ。


 本番では運任せで戦うことは出来ない。


 俺の実力で相手の体に触れるようにならないと…。


 とりあえず、今日の訓練は終わりっぽいので湊とゲームで遊ぶことにした。


 少し前にやった大乱闘でスマッシュなブラザーズゲームをやった。


 それをやっているとなんとなく、戦いのイメージが湧いてきた。


 相手が攻撃してきた場合は、避けたり防御をしてから反撃をして、隙ができたときにボコボコにぶっ叩く。


 自分から攻撃するときは、コンボを決めたり、タイミングを見て攻撃して、相手の反撃ができるようやチャンスを生まないようにする。


 多分、実際の戦いでも同じだ。 


 俺から攻撃するときは、相手が反撃できないように連続して攻撃をする。


 そして、隙ができた時に俺渾身の一撃を加えたり、体勢を崩させたりして触る。


 つまりそういうことか…。


 というか、素手で戦うのはかなりキツイ。


 ゲームのキャラクターも剣や盾を持って、使っているから攻撃のレパートリーが増えて隙を生み出しやすくなっている。


 俺も何が武器を持てばもっと簡単に相手に触れるようになるのでは?


 だが、同時に相手も武器を持つことになる。


 あまり難易度は変わらないかもしれない。


 それでも、間合いとかは取りやすいし、素手よりは戦いやすいだろう。


 俺に剣の才能があるかもしれないし!


 あと、実戦だと相手が武器を持っている可能性がある。


 それなのに素手で戦うとなったらなすすべなく、もうボコボコにされるだろう。


 あとで帳くんに訓練で武器を持たせてくれないか頼んでみるか…。





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