第11話

 はぁ……とため息をついていると、今度は扉のノックもなしに扉がバンッと開かれた。


「姫様! また魔物の襲撃でございます! 今度はいつもより上位の魔物らしく、我々で対処できるかどうか……」


 慌てたメイドが、息を切らしながらそう告げる。


「一日に二度も!? それに強敵だなんて……ひとまず、すぐに領民の避難を……!」


「早速出番のようですね。姫様、ここはどうか私共にお任せいただけないでしょうか」


 指示を出そうとするハシャラを遮るようにして、蜂の魔物がそう言った。


 蟻の魔物では手に負えなさそうな魔物の襲撃、蜂の魔物に頼んでも良いのだろうか、領民の避難……。


 色々なことが頭を駆け巡ったけれど、まっすぐにこちらを見つめる蜂の魔物の目を見たら、口から出た言葉は簡潔だった。


「お願いします……!」


 ハシャラがそう告げると、一人の蜂の魔物を残して全員がバッと部屋の外に出ていき、素早く出現した魔物のもとへと向かっていく。


 魔物はいつも魔物の森の方からやってくるので、そのことを魔物だからこそ分かっているのであろう蜂の魔物たちの動きに迷いはなかった。


 あっという間に村についた蜂の魔物は、避難誘導しているミミズとミツの横もサーッと通り過ぎ、魔物と相対する。


 大きなトカゲのような魔物が、今まさに村に入ろうとしているところに、蜂の魔物が立ちふさがる。


「この程度……本来の姿に戻るまでもない」


 一人の蜂の魔物がそう呟くと、腰に差した剣を抜き、両手で構える。


 トカゲの魔物は怯むことなく、蜂の魔物に襲いかかろうと動き出した。


 けれど蜂の魔物がそれを上回るスピードで飛んでいき、手にした剣であっという間にトカゲの首を落とした。


 そして剣についたトカゲの血を払うと、ゆっくりと美しい所作で納刀した。


 頭を失ったトカゲの魔物は、力なく倒れ込み……ものの数秒で戦いは終わった。


 魔物を撃退した蜂の魔物は、守りのために一人を村の出入り口に残し、すぐに屋敷へと戻っていった。


「なんだったんだべ……味方だべか?」


 残されたミミズや領民たちは、何が起こったのか分からずに不思議そうな顔をしていた。


 屋敷に戻ってきた蜂の魔物から撃退した旨を聞いたハシャラは、ホッと安心して胸をなでおろした。


「一人、村の出入り口に守りとして残しておりますので、今後は敵が来てもすぐに殲滅いたしますのでご安心ください」


「ありがとうございます……」


 少し物騒だけれど力強い言葉に、魔物の襲撃に疲れ切っていたハシャラは素直にお礼を伝える。


 やはり戦いに強い魔物がいるだけで、安心感が違う。


 蟻の魔物たちだけでも心強かったけれど、今はそれ以上の安心感があって、ハシャラは久しぶりに心配事がなくなったような心地がしていた。


「ふっふーん。さ・ら・に! この蜘蛛の魔物ちゃんが守りを固めちゃうわよん」


 蜘蛛の魔物が上機嫌にそう言っていたが、ハシャラにはどういう意味か分からず首をひねる。


「森の入口まで行きましょん」


 蜘蛛の魔物がそう告げて、るんるんと部屋を出て村の近くにある森の入口まで向かうので、ハシャラも困惑しながら後に続いた。


 トカゲを倒した蜂の魔物も「お前たちは屋敷の警護を」と他の蜂の魔物に指示を出し、ハシャラの後に続いた。


 ナラも静かにハシャラの後に続く。


 そして森の入口までやってくると蜘蛛の魔物が「見ててねん」と告げてから、ギラリっと目を光らせたかと思うと、手のひらから蜘蛛の糸を出した。


 ハシャラが突然のことに驚いていると、蜘蛛の魔物はお絵かきでもするように腕を動かして蜘蛛の糸を操っていく。


 そしてあっという間に、森の入口に蜘蛛の巣が完成した。


「これで、地を這う魔物は出てこれないわん。空から来るのはハチちゃんが撃退してくれるし、安心でしょん」


 蜘蛛がくるっと振り返って、褒めてほしそうな笑顔でハシャラを見つめる。


「た、確かに。ちょっと乱暴ですけど……助かります。ありがとうございます」


 そう告げると、蜘蛛の魔物はるんっと楽しそうに笑っていた。


「で、これで私は森に帰れなくなったから、姫様の屋敷に置いてねん」


 蜘蛛の魔物がさらにそう告げる。


「……え?」


 ハシャラが困惑していると、蜂の魔物も口を開く。


「私達も姫様をお守りするため、ぜひお側に置いてくださいませ」


「え? え?」


 困惑するハシャラに、素知らぬ顔で蜘蛛の魔物は続ける。


「気軽にクモちゃんって呼んでねん」


「では私達のことは、どうかハチとお呼びください」


 全然人の話を聞かないクモとハチたちが、ハシャラの仲間に加わった。


 困惑しつつも、村の守りが強固になったことが嬉しいこともあり、ハシャラはやっぱり困惑するしかなかった。

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