ダンジョンストリーマー！！ 〜人気急上昇中のJK配信者はチート級に強い──なぜなら裏方の俺が暗躍しているから〜

第１章 カスカベダンジョン

1本目 完全攻略済みダンジョン探索してたら奇跡起きた笑

『こ〜んマイリー！！！　マイマイです♪』

　21時──とある動画が、動画共有プラットフォームＮｅｗＴｕｂｅ（ニューチューブ）にてプレミア公開された。

　映像に女の子が現れると、【こんマイリー】とコメント欄が活気付く。

　……同接は５人のみ。

『さてさて、今日もダンジョン攻略をしていくよー！』

　かといって生配信ではないので、マイマイと名乗る女性ＮｅｗＴｕｂｅｒ（ニューチューバー）は台本通りに企画を進めていく。

『今回攻略するのは〜こちら！　じゃじゃーん、カスカベダンジョンです！』

　背後の建物を両腕めいいっぱい使って指し示したマイマイ。

　二階建ての園舎、手前には雑草が生い茂った園庭に、いくつかの錆びた小さな遊具──そう、廃園であることを除けば、至って普通の幼稚園だ。

『まぁ、みんなも知ってるとおり、完全攻略された安心安全の初心者向けダンジョンですねー。でもでも！　もしかしたらまだ残されたお宝や見つかっていないエリアがあるかもだよね！』

　危険度の低いダンジョンであっても、決して油断してはならない。

　カメラに向かって一人で喋るマイマイは、おへそがチラ見えするほどの丈の短い白Ｔ、デニムのショートパンツという軽装。胸元のみピンク色の防具を上から装着している。

　防御力としては正直心細いが、これが今の彼女が出せる金銭限界値だ。

『それじゃあ、さっそくダンジョンに〜マイリます！』

　　　◇　◇　◇

『わぁ……ダンジョンはいつ来ても不気味だねぇ。けど、ワクワクもする！　みてるみんな、攻略におけるコツを教えるよっ！　それは……笑顔！　装備はそれだけだよ！　スマイリースマイリー！』

　園庭の隅にそびえ立つ、小さな土山（つちやま）。

　その中を突き抜けて反対側へ通り抜けられるはずの土管に──ダンジョンの入口はあった。

　内部はゲームでよく見られるような洞窟や遺跡……ではなく、カラフルなブロックでできた通路が続いており、普段のサイズよりも遥かに大きい、それこそ子供と同じくらいの大きさのオモチャがあちこちに散らかっている。

　ぐちゃぐちゃに詰め込まれたオモチャ箱の中を冒険しているみたいだ。

　そんな非現実的な世界であるというのに「完全攻略されてるからだいじょぶ〜」と言って、マイマイは行き当たりばったりな探索をする。

【マイマイ気をつけて……！】

【こっち見たかわいい】

【カスカベは初心者向けとはいえ、その会社の装備だとほぼ裸同然では？　そろそろ三大企業の装備を購入するべきかと】

【うなじエロすぎ。誘ってるでしょｗ】

　マイマイの行動に合わせて書き込まれるコメント。

　ポニーテールの髪型とつるっとしたデコ全出しマイマイへの変態コメントや、アンチに近い分析オタクがいて厄介だが、数少ない視聴者なので簡単に通報はしない。

『んー、やっぱりモンスターも全然出てこないねー。どうしよ、撮れ高ないや。え、もう帰る？？』

　マイマイが冗談を言って振り返った時だった。

『うわっ！？』と不注意にも、床ブロックの出っ張りに引っかかって後ろ向きに転んでしまった。

　しかし、そんな仰向けになってしまったマイマイをカメラは逃さずしっかりと捉えていた。

　同時にコメント欄も

【危ないよ、足元よく見て！】

【かわいい！】

【不注意すぎて草、ストリーマー向いてない】

【いい生足いただきましたよぉ！】

　等々のコメントが流れて一瞬盛り上がりを見せる。

『いたた……もう！　ちゃんと整備しておいてよ！』

［ダンジョンなのに……？］

　ポーンのＳＥと共に、白文字テロップから悲しいツッコミが入る。

［が、しかし！　ここで奇跡が起きる……！］

『ん……？　これだけ変なの』

　立ち上がろうとしたマイマイの視界に入ったのは、カラフルブロックの中では明らかに浮いている黒のブロック。壁から少し飛び出しており、あからさまに怪しい。

『えい』

　押した。とりあえずマイマイは押した。

　すると、離れたところから地鳴りが響く。

『おぉ……！　もしかして隠された部屋が開いたのかな！？　音のする方へ行ってマイリます！』

【危険な罠かも。危ないよ】

【興奮するマイマイかわいい♡】

【ヤラセじゃね。音が編集くさい】

【服だけ溶かすスライムとかいてほしい笑】

　再び活気付くコメント欄。

　そして、マイマイが辿り着いたのは先程までの狭い通路とは打って変わる。上が見えないほどに高い天井、立ち並ぶクレヨンのような柱に篝火が灯る広大な空間だった。

　その中心、錆びた鉄色をした巨大な人型の像が立ち尽くしている。

『すっごくおっきー！！　ロボットだー！　……ん？』

　まるでブリキのおもちゃみたいな像はマイマイの存在を認識すると、有無を言わさず巨大な左腕を振り下ろして攻撃してきた。

　動きはゆっくりだったので、マイマイは向かって左に避けるも、すかさず像は右手で潰そうとしてくる。

『……っ！？　やばーい！？』

　マイマイが蹲ると……ブリキ像の右腕に歪みが生じる。やがてヒビが体全体へと走り──あっという間に粉々となり土に還っていった。

　辺りに砂埃が舞い上がる。

『ケホッケホッ……あれ、倒した？　わたし倒した！？　やったー！！　やっぱりわたし最強だねー！』

　どうやら長年放置されたことで老朽化し、最初の一撃に体が耐えられなくなった、という旨の説明テロップが入る。

【さすがマイマイ、よく頑張ったね！】

【喜んでるのかわいい】

【なんか自滅した割には壊れ方不自然では？？　編集か】

【スカートの方が男受けいいよ！】

　と、コメント欄の流れも今日一早くなる。

『あ！　アルカネストーンがドロップしたよ！　けっこうデカいからいいお金になりそー！』

　魔物（モンスター）などからドロップされる戦利品──〝魔晶石（アルカネストーン）〟

　ダンジョンの管理をしている国の省庁機関、探究省（たんきゅうしょう）に提出をすることで質と量に応じた金銭を受け取ることができる。

　最近、増税の影響で取り分が減ったとかで、多方面から不満は出ているが。

『手に入れたお金で〜新しい装備でも買っちゃうおうかな〜！　かわいいのがいいよね！　と、いうわけで次回は新しい装備を揃えたいと思います！　じゃあ、またねー！　おつマイリー♪』

　と、配信はここで終了した。

　観ていたファンも【おつマイリー♪】とコメントを残し、一分も経たずに解散したのであった……

「──ふぅ、さすがマイマイだね。今日も最高に面白かったよね！」

　まぁ、マイマイ本人は俺の隣にいるんだけど。