玉の輿は前途多難 4

「本日はお集まりいただき、誠にありがとうございます」


 ジェラルド・ル・フォール伯爵は席に着いたきり一言も発さなかったが、代わりに執事が歩み出てきて口を開いた。


「ティーパーティーをはじめる前に、皆様にご報告がございます。主人であるジェラルド・ル・フォールがおりますあちらの席をご覧ください。あの通り、我々は、ついに青い薔薇を作り出すことに成功いたしました」


(んん?)


 アリエルはきょとんとしながら青い薔薇を見た。

 同じテーブルのバリエ男爵令嬢とサジュマン子爵令嬢、それから他のテーブルの令嬢たちが「きゃあっ」と歓声を上げる。

 青い薔薇は人類の夢とまで言われている、とても貴重なものである。

 本当に世の中に誕生したのならば、その価値は金貨数千枚……もしかしたらもっとかもしれないと言われていた。


 アリエルとて、本当に青い薔薇の品種改良に成功したのならば、リアル金の生る木に拳を振り回して叫んだだろう。一輪分けてもらって挿し木にして増やして売り裁きたいと、興奮したに違いない。


 しかし――


(作り出すことに成功、ね。ああ、なるほどなるほど)


 面白い言い回しをするものだなと、アリエルは感心した頷いた。

 会場内にいる令嬢たちの中で、アリエル一人が冷静に青い薔薇を見つめていると、執事がこほんと咳ばらいを一つする。

 すると、それまで黙っていたル・フォール伯爵が口を開いた。


「君、名前は?」


 ル・フォール伯爵の視線はまっすぐにアリエルに注がれていた。

 アリエルは軽く左右を見た後で、自分自身を指さす。ル・フォール伯爵が頷いたので、「アリエル・ロカンクール」ですと答えると、彼は短く「そうか」と頷いき、そして――


「ここにいるアリエル・ロカンクール嬢以外は、この場から立ち去るように。見合いパーティーは終わりだ」


 広間は、水を売ったように静まり返った。





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