第3話 追放宣告


「篠原さや、といったか」


 大広間に呼び出された私は、玉座の上から見下ろす国王の声を聞いた。

 その場には勇者と聖女の高校生カップルも立ち会っている。二人は相変わらずご機嫌で、私を見る目にはあからさまな軽蔑が混じっていた。


「そなたは魔力を持たぬと判明した。余の国が抱えるには不要の存在である」

「よって――追放を命ずる」


 場に静寂が落ちる。


(……あ、ついに来た)


 心のどこかで覚悟していた言葉だ。驚きはない。


「まあ、そうなるわな」

 私は小さくつぶやいた。



---


「ちょっと待ってください、陛下!」

 口を挟んだのは勇者少年だった。


(お、助け舟? ……いや違うか)


「このオバサン、余計に召喚されただけでしょ? 追放なんてぬるいんじゃないですか?」

「そうそう。いっそ牢にでも入れておいた方が安心じゃないですか?」

 聖女少女が無邪気に笑いながら同調する。


(……あー、ほんと性格悪いなこの二人)


 心の中でため息が漏れる。自分たちが「選ばれた存在」であることを疑いもせず、他人を切り捨てる。


 だが国王は首を振った。

「牢など無駄。そなたのような役立たずに食わせるパンはない」


 ……それはそれで、言い草としてはどうなの。



---


「では――篠原さやよ。二度とこの城に足を踏み入れるな」

 国王の手の一振りで、兵士たちが私を取り囲んだ。


 追放処分は確定。

 その場に残された選択肢は、受け入れるか、抵抗して無駄死にするか。


(うん、抵抗しても仕方ないよね。はいはい、わかりましたっと)


 私は肩をすくめて答えた。

「了解です。どうせ私も、こんな国に長居する気なかったんで」


 国王がわずかに眉をひそめる。勇者と聖女は、鼻で笑った。

 でも私は笑い返す。


(あんたらの未来、ぜーんぶ丸投げでどうなるか。せいぜい頑張ってね)



---


 兵士に連れられ、城門をくぐる。強い陽射しが降り注ぎ、石畳の道がまぶしく光っていた。


 手元には、支度金として渡された小袋のコイン。

 そして、何も知らない異世界での自由。


 意味不明。ほんと意味不明なんだけど。


 不安がないと言えば嘘になる。けれど、立ち止まったところで誰も助けちゃくれない。


(……まあ、死にはしないでしょ。たぶん)


 そう自分に言い聞かせ、私は苦笑した。

 腹をくくるしか、生き延びる道はない。


 だったら――ちょっとくらい図太く、楽しまなきゃ損だよね。

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