RTAで世界記録持ちの俺がゲーム世界に転生するとこうなる 〜イベントスキップして最速攻略したので誰も俺を知らない件〜

@Garyoten

プロローグ

第1話 タイマースタート

 ——興奮で動悸が止まらなかった。


 今までの練習の集大成がここに詰まっているんだと考えると、とてもじゃないけど落ち着いていられなかった。


(急げ。ここで失敗したら台無しだぞ)


 そう自分を鼓舞して俺はコントローラーを動かす。

 かなり難しい処理だけど沢山練習を重ねた技だ。そう簡単に失敗してたまるか。


 どうやら練習の成果が出たようだ。ドアを開けるより数秒早い壁抜け技を俺は何とか成功させた。


 画面の中の主人公が壁をすり抜けて囚われのお姫様の元へと辿り着く。

 ムービーが流れ始めて、お姫様が主人公の方に振り向いた。


『助けていただき、ありがとうございます』


 これでエンドロール。タイマーストップだ。

 この速度ならおそらく世界記録だろう。


 咄嗟に俺はパソコンのキーを叩き、画面に映るタイマーを止めようとして——。


(なんだ? 身体が動かないぞ?)


 まるで体が軟体生物にでもなったかのように俺はそのまま椅子から崩れ落ちた。


 身体はぴくりともせず、段々と意識も遠ざかっていく。

 そんな朦朧とした状態で俺はようやく自分の状態を思い出した。


(そういえば数日間メシも食わずにずっと練習してたっけ)


 その思考を最後にして、俺の意識は完全に散った。

 残ったのはモニターの中で無常にも時を進め続けてるタイマーの表示だけだった。





 16歳の誕生日。父親から古びた剣を貰い、冒険へと旅立とうとしたその時だった。

 俺はふと前世の記憶を思い出した。


 確か前世の名前は瀧川隼人。

 死んだ時の年齢は今の俺と同じ16歳。

 大人気ゲーム『グランデブレイブ』の大ファンで、そのゲームのRTA——最短でゲームを攻略する競技——が趣味だったようだ。


 どうやらその競技に熱中し過ぎた結果、栄養失調で命を落としたみたいだけど……。


 そこで俺はようやくある違和感に気づいた。自分自身の記憶が二重になったように感じたのだ。

 まるで前世でも今の世界の事を知ってたかのような……。


(いやここ『グランデブレイブ』の世界じゃない!?!?!?)


 見覚えのある風景の家、特徴的なヒゲの父親、そして最初に受け取った古びた剣——。

 間違いない。これは俺が魂を掛けてプレイしていた『グランデブレイブ』だ。


(という事は俺はグラブレの主人公、ライゼ・フォールドに転生したって事なのかよ!?)


 『グランデブレイブ』。日本の有名ゲーム開発会社が作り出したオープンワールドRPG。

 彼方果てまで広がる広大なマップ。

 それに付随する数多のクエスト。

 そして全て想定されてるとは思えないほどの自由度。

 どれもが最上位品質を持つまさしく神覇権ゲーだ。


 しかし、その自由度故にストーリーは王道中の王道となっており、最終的な目標は王国の囚われし姫を助ける事になる。


 その役目を担うのが我らが主人公のライゼ・フォールドという青年であり、今の俺自身であった。


(まさか大好きなゲームの主人公に転生できるなんてめっちゃ幸運じゃね? いや、前世の死因を考えればそうでもないか……)


 あまりに膨大な情報が俺の中に流れ込む。

 途端に俺の頭はショート寸前となり、どうでもいい事をぐるぐる考え始めてしまった。


 そんな俺の事は露知らず、父親は特徴的なヒゲを撫でながら俺に渡した古びた剣について語り出す。


「まさかライゼが旅に出たいと言うとはな。お前には言っていなかったが、今や村の技師に過ぎない俺も、昔はグランデの地を旅したものだ。血は争えないな」


 父はそこで昔を思い出すかのように少し沈黙する。

 幾度となく見た光景だ。『グランデブレイブ』のオープニングはライゼが父に送られて旅に出るとこから始まった。


「その剣は俺の冒険を幾度となく助けてくれた俺の相棒だ。少し古いが手入れを続けていたから今でも使えるぞ」


 そうだ、ここからライゼの、俺の旅が始まるんだ。このグランデの広大な世界で俺だけの旅が。


「王国の騎士になりたいのだろう。一度夢を見つけたならば、それを貫き通す事だ。さぁ行ってこいライゼ。お前だけの冒険に!」


 それならやるべき事は一つだけだ。

 前世で達成できなかったグランデブレイブのRTAで世界記録を出す。

 再走不能の一度きりだけの挑戦だ。


「ありがとうお父さん。行ってくるよ!」


 俺は原作通りのセリフを父親に告げ、後ろも振り向かずに一直線に走り出した。


 手元の時計の時間は12時丁度。

 ここからタイマースタートだ!





 グランデブレイブの序盤は回避不能のチュートリアルが待っている。


 これは初めて今作プレイするプレイヤーが、広大すぎる世界で迷わない様にする為の制作側の配慮である。

 しかしそれ故、このチュートリアル地帯を一度攻略しない限り、その先には進めないという既プレイ勢にはなんとも面倒な仕様となっている。


 どうにか強引に突破する事も出来はするが、その場合モンスターがポップしなくなるという不具合が発生する為、今回のRTAチャートでは比較的まともに攻略する。


 なんて解説を頭の中で出来るくらいにはここのパートは慣れている。

 時間がかかるとはいえ、大して難しい事はやらないからだ。


 まず辿り着いたのは剣の試練こと剣を扱うチュートリアル。

 ルールは簡単、湧き出てくるモンスターをワンパンで処理するだけだ。


「GAAAAAAAAAAAAAAAA」


 ゴブリンAが鳴き声と共にポップ! しかし、既にそこには俺の剣が!

 ゴブリンA死亡! 0.1秒もかからずその命を散らす!


「GAAAAAAAAAAAAAAAA」


 ゴブリンBが鳴き声と共にポップ! しかし既にそこには、Aを倒した後で移動していた俺の剣が!

 ゴブリンB死亡! Aと同じく0.1秒もかからずその命を散らす!


 とまぁ、モンスターがどこにポップするかは決まっているので、出てきた瞬間に切ればそれで終わりだ。


 という事でミスなく剣の試練を突破。

 俺は次のチュートリアルの弓の試練へと移動した。


【ライゼは剣の試練を突破した!】



 弓の試練。

 ここでプレイヤーは初めて弓を入手する。

 これもルールは簡単。遠くのモンスターを弓で射抜くだけだ。


 俺は弓を入手すると素早く2本を虚空へと放った。


「「GAAAAAAAAAAAAAAAA」」


 二体のゴブリンが姿を現す! しかし刹那の内に弓に撃ち抜かれて消滅してしまった!


 そう。こちらも剣の試練と同じでどこにモンスターか出て来るかは固定である。

 だから覚えている出現地点に弓をあらかじめ放っておけば最速で倒せるという事だ。


 俺は弓の試練もミスなく攻略し、最後の試練である盾の試練へと向かった。


【ライゼは弓の試練を突破した!】



 盾の試練。

 チュートリアル三本建ての最後は盾を入手してゴブリンロードとのボス戦である。


 しかし悲しい事に、このボス戦で盾を使う事は一度もない。


「GAAAAAAAAAAAAAAAA」


 ゴブリンロードは右手に巨大な剣を持った、明らかに今までのとは格が違うモンスターだ。


 その力を見せつけるかの如く、ゴブリンロードは大剣を振り下ろす。


 この攻撃は普通、盾でガードしなくてはいけないものとなっている。

 そして盾で攻撃をガードするとゴブリンロードは混乱状態に陥るのだが……。


 この技には致命的な弱点があるのだ。

 それは振り下ろすまでが長いことである。


 発生が遅すぎる技をわざわざ盾で喰らってやる必要もない。

 俺はその隙に剣撃を叩き込んでゴブリンロードは消滅した。


【ライゼは盾の試練を突破した!】



 慣れ親しんだ工程はどうやら俺を助けてくれたらしい。

 俺は初めのチュートリアルを一度も失敗する事なく攻略する事ができた。


「にしても体がよく動くな……」


 画面上のライゼをコントローラーを使って動かしていた時と全く遜色ない動きが出来ている。

 まるで頭の中でコントローラーを動かしているかのような……。


 いや、実際それをイメージして動いているんだけどね。


 どうやら前世でRTAをやってた時の指の動かし方さえ分かっていれば、ココでも自動で身体が動いてくれるみたいだ。


 全く便利だと思いながら、俺は茂みを掻き分けた。


 この茂みを抜けたらチュートリアルエリアは終わりだ。

 つまり今までが前座だとするならば、この先に広がる景色こそがグランデブレイブの本番と言っても過言ではない。


 俺は初めてこのゲームをプレイした時のような興奮を胸に、新たな世界へ飛び出した。





 これは、世界を最速攻略する男の物語。

 一応ここは後書きスペースの予定。

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